第3話
スマホの画面に、久しぶりな名前が映し出される。
電話越しに聞く入谷先輩の声は、相変わらず人懐っこくて、少し安心する。
いつもの中庭ではなく、屋上で待ち合わせる。
金色の髪を揺らしながら、笑顔で手を振る入谷先輩。凄く久しぶりだ。
「むちゃくちゃ久しぶりな気がすんな。元気だったか?」
「はい。入谷先輩もお元気そうですね。変わりありませんか?」
近況報告をし合って、ゆったりとした時間を過ごす。
凄く楽しそうに話す先輩を見ながら、やっぱり思うのは、隠している嘘だ。
ここに女の姿でいたら、こんな気軽に話すような関係にはならなかっただろう。
この平和な時間を壊さないようにするには、秘密は絶対知られてはいけない。
絶対にだ。
「へー。累の奴隷ね……。その子も災難だよな。よりによって、一番厄介な累に選ばれるなんてさ」
「確かに、何かある気はしてましたけど、そんなに危ないんですか? そんなに危険なら、どうにかしてあげたいな……」
手に持った飲み物を見つめ、紅羽を思い出す。
今のところ何かされたとは聞いてないから、大丈夫なんだろうけど。彼女があの人から逃げられるとは思えない。
「お前さぁ……」
「はい?」
「そいつの事……好きなの?」
唐突に言われ、目が点になる。様子を見るようにこちらを見つめる先輩を、私も見つめてしまう。
少しの沈黙。
駄目だ。何だろう、この人可愛い。
「ぷっ……あはははは」
「なっ、何だよっ! 笑うなよっ!」
「すみませんっ……でも、まさかそんな質問されるとは思わなくて。先輩って、可愛いですね」
一瞬びっくりしたような顔をした後、少し赤くなってむくれたようにそっぽを向いた。
「男相手に可愛いとか言うなよ。……つか、お前のが……可愛い、だろ……」
語尾が小さくて何を言ったのか聞こえなくて聞き返すと、ぶっきらぼうに「何でもねぇよ」と言われてしまった。
「で、どうなんだよ……」
「そうですね、好きですよ」
言うと、また驚いたように目を丸くして固まる。
「まさか、ヤキモチ焼いてます?」
からかうように言うと、また赤くなる。
「なーんて、冗談ですよ。好きなのは本当ですけど、友達としてですから、恋愛感情はありません。安心しました?」
「べっ、別にそんなんじゃ……」
からかい過ぎたかなと思いながらも、コロコロ表情を変える先輩が、可愛くてつい遊んでしまう。
やっぱりこの人といる時間は楽しいから、好きだな。
この時間は、大切にしたい。
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