第30話
〔東部累side〕
正直子供が好きかと聞かれたら、どっちでもないと答える。
好きとか嫌いとかじゃなく、興味が無い。
だけど不思議だ。
紅羽の弟に関しては、妙に可愛く感じてしまう。
「何だよ……ジロジロ見んなよっ……」
外も暗くなってきて、弟君を送っている訳だけれど、こんな気持ちは初めてかもしれない。
なんだろう、やたらと撫で回したくなると言ったら、変だろうか。
言葉には出来ないけれど、ゲームをしている最中も、何度か頭をくしゃくしゃと撫で付けた。
それにしても、よく見てみると、紅羽程ではないけれど、弟君もなかなか綺麗な顔のイケメンだ。
「弟君」
「それ、やめてくんね? 敬でいい」
「うん、じゃぁ、敬君」
「君もいらない。男に君とか言われんの、気持ち悪いし」
そっぽを向きながらも、そう言った敬。
「どうしたら、俺は認めてもらえるの?」
前までは、誰に何を思われようとどうだってよかった。
でも、紅羽に関してはそうはいかない。
紅羽の大切にしている家族であり、俺の大切な紅羽の弟なのだから、やっぱりちゃんと認められたいと思うわけで。
これも惚れた弱みというやつか。
「どうって……そんなん分かんねぇよ……。ただ、俺は……ずっとずっと頑張ってきた姉ちゃんに……いっぱい、幸せになって欲しいから……だから……」
肩と声を震わせて俯く敬の頭を、またくしゃくしゃと多めに撫でる。
「な、何だよっ! やめろってばっ……」
「じゃ、何の問題もないよ。紅羽は俺を救ってくれた強くて優しい子だから、そんな紅羽が幸せになれないわけない。それに、紅羽は俺といて幸せだって言ってくれたし、俺もそうだから」
ただ黙って聞いている敬を前に、俺は自信を持って続ける。
「俺はさ、もう紅羽がいないと、立ってすらいられないんだ。紅羽が俺の生きる意味なんだ。だから……」
俺はゆっくり息を吐いて、敬を見つめた。
「お姉ちゃん、もらっていいかな?」
そのうち、敬にもこうやってどうしても手に入れたい大切な子が現れて、そしたらきっと分かる。
黙って敬の答えを待つ。
どれだけ長くなっても構わない。ずっと認めてもらえなくても、紅羽だけは諦めるわけにいかないから、いつまでも説得するつもりでいるから。
目は合わないけれど、顔だけこちらに向けた敬が、躊躇いがちに口を開く。
「俺、まだ子供だし、あんまそういうのよくわかんねぇけど……あんたが姉ちゃんの事めちゃくちゃ好きなのは伝わってるし、姉ちゃんはこれって決めたら曲げない頑固者だし」
確かにと少し笑う俺に、敬はふっと表情を柔らかくした。
直ぐに真顔に戻り、敬の貴重な表情が見れて少し得した気分になる。
ニヤニヤするなと怒られてしまったけど、やっぱり敬は可愛い。
「姉ちゃんが選んだ奴なら、ちょっとくらいは信用してやっても、いい。でも、姉ちゃん泣かしたら、許さねぇからなっ!」
厳しいお言葉をいただいて、俺は笑った。
これは、絶対幸せにしないといけないな。
敬を無事送り届け、スマホを操作して、紅羽の名前を見つける。
俺の可愛くて、優しくて、強い彼女。
俺の全て。
「もしもーし。うん、ちゃんと送ったよ」
『すみません、ありがとうございます』
「えー、もっと褒めてよー」
『ふふっ、さすが先輩』
鳥が囀るような可愛い声とは、まさにこの事かな。
「ねぇ、紅羽」
『はい? 何ですか?』
素直だけど頑固で、俺より俺を大切に思ってくれる愛しい子。
俺の宝物。
「生まれてきてくれて、ありがとう。俺、紅羽に出会えて、すっげー幸せだよ」
少しの沈黙の後、鼻を啜る音がした。
あぁ、今すぐ抱きしめて、キスをしたい。
帰る足の動きが早くなる。
早歩きが、どんどん走りへと変わる。
「すぐに帰るから、待ってて。愛してるよ、紅羽」
スマホの向こうで可愛く愛を囁く声に、体中の血が湧き上がる感覚が走り抜ける。
愛おしさが溢れて止まらない。
出会った頃は、こんな感情を持つ子に会うなんて、想像もしてなかった。
俺は、本当に幸せ者だ。
二人で誰よりも幸せになろうね、紅羽。
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