エピローグ
第29話
認めない宣言をされてから、敬が必要以上に連絡してくるようになり、たまに学校にまで来るようになった。
「精が出るねぇ、弟君」
「まぁ、彼の気持ちは分からなくないけどね。紅羽には悪いけど、彼氏がアレじゃ、信用もなんもあったもんじゃないしね」
苦笑しながら言う入谷先輩の隣で、辛辣な言葉を発した美都は、空を見上げながらパックジュースのストローを口にくわえた。
「でも、幸せに出来る奴ってどうやって見極めるんだろうね。どうしたら敬は納得するのかな……」
「多分何しても納得はしないんじゃないかな。ほら、あるじゃん。ずっと自分だけの家族で、ましてや二人だけの姉弟でさ。お姉ちゃん取られたみたいな気持ち」
入谷先輩の言葉に、なるほどと納得する。
「彼ももう少し成長したら分かるよ。いくら外見が成長しても、まだ小学生だしね。ほら、恋でもしたら、分かるって」
「先は長そうだけどね……モテるんだっけ? なかなかイケメンだったし、変な方向に行かなきゃいいけどね」
「ちょ、ちょっと美都、変な事言わないでよ」
女の子をばべらせている弟の姿を想像し、嫌な気分になる。
どうか、純粋に育ってくれる事を願う。
「で、今日は問題児は?」
「問題児って……。先輩は実家の用事とかで」
「もう、あの家は、大丈夫なの?」
入谷先輩に美都は尋ねる。
「修復中ではあるけど、まぁ、大丈夫だろ」
時間をかけて修復出来るなら、その方がいい。
先輩の時間が、先輩の世界が、平和であればいいと願う。
「あ、敬から……」
スマホが震え、敬の名前が表示される。
「もしもし」
『もしもーし、紅羽?』
「えっ!? 先輩っ!? な、なんで……」
『弟は預かった。返して欲しければ、俺の寮の部屋まで来い。なんちゃって』
明らかに楽しんでいる声で先輩が言う。
私は仕方なく放課後の校舎を走る事になる。
学校を出て、先輩の寮に辿り着いた頃には日が少し落ち始めていた。
部屋へ通してもらい、中に入ると二人が並んで座っていて、テレビを一生懸命見ながら騒いでいた。
ゲームを、している。
「クソっ! あんた強すぎるだろっ!」
「君が弱いんでしょ。また勝ち〜」
不思議な空間ではあるものの、何だかんだと楽しそうにしている二人。
まるで兄弟のようで、微笑ましくなる。
しばらく見ていると、悔しそうにしていた敬がこちらを振り向いた。
「姉ちゃん、やっぱりこいつ性格悪いよっ! 全然勝てねぇんだけどっ!」
「まだまだ俺には勝てないよ〜?」
私達いつものメンバーでいる時以外で、こんなに楽しそうにしているのを見るのは初めてで、こちらまで嬉しくなる。
先輩が、幸せそうにしている姿が、今何よりも嬉しく思う。
「そういえば、先輩。もうご実家の用事はいいんですか?」
「あぁ、うん。別にそんなに重要な用事とかじゃないから、大丈夫だよ」
先輩の笑顔に納得し、ふと時計を見る。
「ほら敬、そろそろ帰らないと叔母さん心配するよ」
どこか不服そうな顔をしたものの、敬は素直に立ち上がった。
「えー、帰るのかー……残念だなぁ、せっかく仲良くなったのにー」
「なっ……べ、別に仲良くなってねぇしっ!」
否定しながらも、照れているのかそっぽを向いてしまった。
暗くなると危ないというので、先輩が敬を送って行くという話になり、私は不安に思いながら待機する事になった。
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