第28話

私は今、久しぶりのファミレスにいた。



そう、一人で。



待ち合わせの時間はもうそろそろ。



「あ〜ぁ、また負けたっ! いつも俺より早いよな〜」



現れた男の子は、私が最後に見た頃よりだいぶ大人になっていて、知らない子のようだった。



「私に勝とうなんて、まだ早いよ。久しぶり、何か大きくなったね」



「うん、久しぶり。背が急に伸びてきててさ、なぁなぁ、格好よくなった? 俺結構モテるんだよ?」



嬉しそうに話す姿は、やっぱりまだまだ子供で、でも想像していたより成長しているのが嬉しい。



「で? そっちはどう? いじめられたりしてないか? 姉ちゃんはどっかボーッとしてるから弟としては、なかなかに心配だよ」



水を一口飲みながら弟、けいが言う。



電話で連絡は取っていたものの、こうやって面と向かって話すのは凄く久しぶりだ。



最近あった事、学校の事などを聞いたりしていると、敬が毎日楽しく平和に暮らせているのが分かって、安心する。



「姉ちゃんは? 学校とか、楽しい?」



私は先輩の事は伏せて、色々話せる部分だけを掻い摘んで話した。



「へぇー、いい友達が出来たんだな。よかったよ」



「大人ぶっちゃって〜」



本当に成長しなぁとしみじみしてると、目線をズラした先の席に座っている人物と目が合う。



固まる私に、敬が不思議そうに「どうかした?」と聞いてくる。



何て言えばいいんだろう。



正直な話、今はどうかは分からないけれど、私の知っている敬は、結構なシスコンだった。



こちらをジッと見つめて、微笑んだ顔が何処か怖い気がする人を、彼氏って紹介したら、どうなるだろうか。



グルグルと悩む私が見ていた方向を、くるりと体ごと向いた敬を止める暇もなく、敬と視線の先の人物の視線が合ってしまう。



「知り合い? めちゃくちゃこっち見てんだけど……つか、目が怖っ……」



「あ、えっと……あの人は知り合いっていうか、同じ学校で……」



「もしかしてストーカー? 姉ちゃん付き纏われてるとか?」



弟と会うと報告はしているはずなのに、何で少し怒ってるように見えるんだろう。



確かに、ちょっと普通の小学生にしては成長しすぎだとは思うし、私が小さいってのもある分、大人びて見えるけれど。



先輩を騙してまで男の子と会う程、私は命知らずではない。



この状況をどうしたらいいのか考えを巡らせていると、敬が立ち上がる。



「俺が言ってきてやるよ」



こういう時の怖いものなしな所は、やっぱりまだ子供だ。



「敬待ってっ! 違うのっ!」



私の制止も虚しく、敬が彼の元に向かう。



追いかけてそちらに小走りで近づくと、それを待ち構えていたかのように、その人はニヤリと笑った。



「あんた誰? 何か用かよ」



「いや、可愛い子がいるなぁって思って」



目を細めて、意地の悪そうな顔で笑いながら言う。



私から目を離す事だけはしない。



「敬っ、待ってってばっ! この人は知り合いだからっ……」



「知り合い、ねぇ……」



何か言いたそうな顔で見つめられ、ドキリとする。



「紅羽は知り合いとあんな事やこんな事するんだ? それはとんだクソビッチだね」



私は急いで敬の耳を両手で塞いだ。



「急に何だよっ!」



とりあえずは聞いてなかったようでよかった。綺麗とは言い難い言葉をあまり耳にして欲しくない。



「ちゃ、ちゃんと、紹介しますから……意地悪しないで下さい……」



満足そうに笑い、彼、東部先輩は自分の席から立ち上がる。



席を移動し、ちゃっかり私を奥へ追いやり、隣に座る先輩を、ただ見つめる敬に、私は意を決して口を開いた。



「あの、ね、言いにくくて言えなかったんだけど……この人は、同じ学校の先輩で東部累さん。それで……その……か、か、か、彼氏……です……」



生まれて初めて口にする言葉に、緊張といたたまれなさと羞恥で、顔から火が出そうな気分だ。



「彼氏、ねぇ……。まぁ、変な奴じゃないならいいけど……」



思ってたよりすんなりとした返事が帰ってきて、少しホッとしていると、敬が「ただ……」と続ける。



「俺は姉ちゃんを幸せに出来る奴かどうか分かるまでは、認めたわけじゃねぇからなっ!」



拗ねたように言ってジュースを一気に飲み干すと、敬は先輩を睨みつける。



「それは困ったな……どうしたらいいんだろうね、紅羽」



「わ、私に言われても……」



難しい。



幸せに出来る、なれる保証なんて、誰にも分からない。



幸せだと思っていても、その幸せが一瞬でなくなってしまう事だってあるわけで。



敬と私は、それを普通に経験してしまっているわけで。



敬の気持ちもわからなくない。でも、わかって欲しい気持ちもあって。



どうしたらいいんだろうか。

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