第27話
放送室へ行くまで、東部先輩はマイクに向かって何か言っているようで、必死に走る私にはよく分からなかったけれど、変な事にならないかと焦りが強くなる。
やっとの思いで放送室へ辿り着き、力一杯扉を開けた。
「ん? あれ? こら、一人になるなって言ったろ?」
「もう、何やってるんですかっ!? 恥ずかしいからやめて下さい」
中へ入り、先輩に近寄る。
それが、よくなかった。
何かよからぬ事を企んでいる時にする、嫌な笑いを浮かべた先輩から少し後退る。
けれど一足遅く、腕を掴まれて引き寄せられる。
「最初からこうしとけばよかったんじゃん」
「先、輩?」
椅子に座らされ、先輩はマイクの方向を変えて、私に顔を近づけてくる。
「さぁ……ショータイムだ……」
「え?」
「あーあー、コホンッ。えー、クラスとお名前は?」
意味が分からず、首を傾げる私に、先輩は同じ質問を繰り返す。
「一年、睦月……紅羽、です……」
「俺は二年、東部累。さて、ここからが本題」
意味が分からない私をよそに、先輩は楽しそうに笑う。
更に顔が近づき、いつもの甘い雰囲気を醸し出し始め、ドキリとする。
「質問……紅羽は、誰のもの?」
突然の質問に、答えられずにいる私の頬を先輩の指が滑る。
「答えて……紅羽」
小さな声すらマイクが拾うから、多分全てが学校中に聞こえているのだろう。
そう思うだけで心臓が飛び出しそうなくらい恥ずかしいのに、先輩の誘うような目に抗えず、私は口を開く。
「東部、先輩の……ものです」
「うん、よくできました……もちろん、俺も紅羽のものだよ……」
ふわりと微笑み、唇が一瞬触れてすぐ離れる。
「せ、んぱっ……ぅんンっ……」
「ねぇ、紅羽……俺の事好き?」
耳元で私にしか聞こえないくらい小さな囁きに、私は頷いた。
「ちゃんと言葉にしないと、みんな理解しないでしょ? 言ってよ」
付け足すように「名前呼んで……」と甘く囁かれ、恥ずかしさに目をきつく閉じた。
「る、累っ……好き……」
嬉しそうにふわりと笑った先輩に、私の言葉がこの顔をさせているんだと思うと、こんな状況なのに、少し嬉しくなってしまう。
「紅羽……愛してるよ……。じゃぁ……ちょっとだけ、サービス……」
先輩との慣れたキス。
これも放送されているのかと思うと、やっぱり恥ずかしくて、少しだけ抵抗してみるけれど、先輩を押す手が取られる。
「ン、はぁ……ダメだよ……みんなに聞いてもらって、ちゃんと分かってもらわないと……」
「こんな事しなくて、もっ、他にだって、方法はっ……んんっ!」
わりと本気で抵抗し始めたのに、先輩がそれを許すはずもなく、どんどんキスは激しく深くなる。
ここまでしなくてもよかったのではと思いながら、どんどん先輩のキスにのまれていく。
「せ……ぱっ……んっ、ゃっ、ンんっ……」
「あぁ……やば……このままじゃ、収まんなくなるわ……」
吐息混じりに呟く先輩の言葉に、熱くなった体がヒヤリとする。
信じられないというような顔で首を振る私に、先輩がぷっと吹き出した。
「あははははっ、途中でもうマイク切ってるから安心して。俺が紅羽の可愛い声、他の奴に聞かせるわけないでしょ?」
ニヤリと笑う先輩の手が私の前髪に触れた。
「ま、このくらいしとけば、紅羽に手を出すようなレアな奴はいないだろうしね」
満足そうに言って笑う先輩に手を引かれ、私は椅子から立ち上がる。
「万が一そんな命知らずがいても、紅羽は渡さないけどね」
ちゅっと短く唇が触れ、先輩がクスリと笑う。
息がかかる程近くにある綺麗な顔が、どこか幸せそうで、私まで笑ってしまう。
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