第23話

〔東部累side〕



あんなに暴れたのは、いつぶりだろう。



幼い頃母親が亡くなって、父親が新しい母親を連れて来た日に、部屋がめちゃくちゃになるまで暴れて泣いた時以来だった。



俺の可愛い紅羽。



怖がりな癖に生意気で、健気で大切なのに壊したくて泣かせたくなる女の子。



俺の人間らしい感情を唯一引き出してくれて、大事で大事で仕方なくて、紅羽といると安心出来て笑っていられる。



だから、手放した。



俺と一緒にいたら、きっと紅羽は幸せになんてなれない。



俺には、紅羽を笑顔にする事が出来ないから。



泣かせる事しか出来ない男となんて一緒にいても、何の意味もない。



快楽だけで繋がる関係なんて、そう長くは続かないし、そんなものに未来なんてない。



今までだってずっとそうだった。



俺のそばにいた子達は、すぐに離れていく子達ばかりだった。



現実の俺が理想の俺と違うから、思ってたのと違ったと、何度も捨てられた。



それから、俺は女に期待をしなくなった。



いや、女には元々何も期待してなかったのかもしれない。



俺にとって女はみんな汚くて、得体が知れなくて、怖い生き物。



どの女も、あの女と被る。



なのに女とのソレをやめられない。



俺が一番汚い。



紅羽は汚れた所が全くなくて、凄く綺麗で、俺みたいなのと一緒にいてくれる優しい子で。



例えそれが同情でも、紅羽が少しでも俺の事を考えて俺だけを思ってくれるのが嬉しくて。



俺とは正反対の世界にいる紅羽は眩しくて、そんな紅羽が欲しくて欲しくて堪らなくて。



だけど、不幸になるのが分かっているのに、一緒になんていられない。



俺のつまらない我儘で、あの優しい子を縛り付けるなんて、しちゃいけないんだ。



どれだけ彼女からの愛情が欲しくても、彼女を独り占めしたくても、我慢しなきゃ。



大丈夫。女は、まだまだ他にもいる。



紅羽の代わりにはならないけれど、体さえ満たされれば、心はどうにでもなる。



今まで、そうやってきたんだから、今更何も変わらない。



前の生活に戻るだけだ。



学校に行かなくなって、我ながら荒れた生活を送っている。



そして変わらず、あの女から今日も連絡がくる。



そして変わらず、俺はそれに応えてあの女に会いに行くんだ。



どれだけ心が悲鳴をあげていたとしても、俺は今日もあの女の元へ行く。



紅羽の付けていた首輪に触れるだけのキスをして、自らの首にかかっていた主の証を手に取り、隣に並べた。



「行ってきます。紅羽……大好きだよ……」



言う度に心が暖かくなって、壊れかけた心が戻る気がするから、これが最近の日課になっている。



これで、これだけで十分幸せなんだから。

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