第五章
第21話
〔入谷律樹side〕
累が紅羽ちゃんを連れて行って以来、累と紅羽ちゃんの姿を見なくなって数日が経った。
美都が心配する中、俺は嫌な予感だけを考えずにはいられなくて。
正直、自分にも身に覚えがあったから余計だ。
それを美都に話したのは、やっぱり隠していたくなかったのもあったけれど、美都に対して誠実でいたかったからだ。
美都はすぐに累の元へ行くと言った。
どんな状況になったとしても、一刻も早く累から紅羽ちゃんを引き離さなければ、大変な事になるんじゃないかと。
累は、たまに予想外な事をする。
今は紅羽ちゃんに依存しているみたいだったからこそ、俺は美都を止めなかった。
彼女が壊れてしまっては、意味が無いから。
勝手な予想だけれど、彼女は累を助けられる唯一の希望なのだ。
いや、これは俺の願望も入っている。
彼女なら、と。
累のいる寮に足を踏み入れ、累の部屋へ急ぐ。
防音設備があるとはいえ、少しくらいは外に音は漏れるようで、明らかに行為の声が聞こえてくる。
眉を寄せて、美都は扉を叩いた。
中へ入った時の状態は、酷いものだった。
そう、あの時の俺のように。
見た事のない器具に、薬であろう錠剤、使い終わったゴムなどが部屋に散らかっていて、行為後の嫌な臭いが鼻を刺激した。
紅羽ちゃんが視点の合わない目で累だけを見つめていた。
その姿が、あの子と被って罪悪感が俺を襲った。
累が紅羽ちゃんの髪を撫でると、紅羽ちゃんは眠ってしまった。
紅羽ちゃんを毛布に包んで、俺は彼女を抱き上げた。
元々小柄で細い印象の彼女は、ありえないくらい軽くて、一瞬固まってしまった。
元々こんなに軽かったのか、それともここ数日でここまで体重が落ちたのか。
累に聞こうにも、累は心ここにあらずといった状態で、役に立たなそうだ。
累にとって紅羽ちゃんは、今までの相手の誰よりも依存度が高いように思えて、そんな相手にそこまで危ない薬を使う事はないだろうと考えた俺は、とにかくここから連れ出す事を優先する事にした。
累の様子は後で見に来る事にして、まだ何か言いたそうな美都を連れ、累の部屋を後にした。
外に待たせた家の車に乗り込み、紅羽ちゃん住むの寮へ向かう。
向かう間も、美都は心配そうにしていて、大丈夫だと安心させるように手を握る。
そこまで離れていない寮に着いて、足早に部屋へ向かった。
鍵を開けてもらい、ベッドへ寝かせる。
女同士だけの方がいいと思い、美都もそう言ったので、後は美都に任せて、俺は累の元へ戻った。
累は相変わらずどこを見ているのか分からない様子で、部屋の隅で膝を抱えて座り込んでいた。
この姿を見るのは初めてじゃなかった。
昔は毎日のように見ていた。
なんなら、最近は落ち着いていて、安心していたのに。
「お前さ、そんなになるくらい大事なんだったら、何でこんな事……」
「分からない。ただ、止められないんだ……。紅羽が大事で、優しくしたくて、なのに傷付けて、泣かせて、むちゃくちゃにしたくなる……」
病んで、歪んで、狂って。
累は今も苦しんで、もがいているんだ。
なのに、まだその原因から逃れられないでいる。
紅羽ちゃんは、こんな累を受け入れてくれるのだろうか。
それとも、今までの女の子のように、壊れて離れていってしまうのか。
これ以上、累には苦しんで欲しくないのに。
どうか、累が今の苦しみから解放されるように、できる限り動くと決めたから。
子供のように蹲る累をベッドへ寝かせ、部屋を後にした。
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