第19話

掴まれている手首が痛む。



折れてしまうのではないかと思うくらい、キツく握られている。



それでも、私は痛みを我慢するように、何も言わずに唇を噛んでいた。



涙が滲むけれど、泣いちゃいけない。



私は、泣けない。



先輩が、私より今にも泣きそうな顔をしているのが分かるから。



傷つけたくないのに、傷つける事しかできない不器用な人。



怖いのに、弱くて守ってあげたくなる人。



着いたのは、いつもの教室ではなく、寮だった。



特別寮。



一般寮とは違い、特定の条件を満たした生徒だけが入れる寮と聞いた事がある。



中に入ると、綺麗で豪華で、ただただ広かった。



長い廊下を通って、一つの部屋の前で止まって、鍵を素早く開けて中へ引きずり込まれるように入る。



大きなベッドに乱暴に投げられ、倒れ込む。



「脱いで」



「え?」



「聞こえなかった? 全部脱げって言ってんだけど」



今、彼をこれ以上怒らせるのは得策じゃない。



私は震える手で、制服を徐々に脱ぎ捨てていく。



「紅羽が自分からその綺麗な素肌を晒すのが、ここまでそそるなんて、知らなかったよ」



壁に凭れて、妖艶な顔で興奮を露にした先輩が、私を射抜くように見つめる。



裸になった私に、ゆっくり歩み寄る先輩が私の腰に手を回して引き寄せる。



「隠すなよ。今更恥ずかしいも何もないでしょ?」



そうは言っても、やっぱり恥ずかしい。けれど、私は抵抗などしない。



「で? これ、どうしたの? やったの、誰?」



「分からない、です……気づいたら、傷があって……」



ベッドに押し倒され、跨って私を見下ろす先輩は、口の端を上げて笑う。



「嘘が下手だね、紅羽は。ここまでの傷、自然につくわけないし、まさか、転んだとか、つまらない事言うわけじゃないよね?」



言いながら、私の両手を束ねて拘束し、そのままベッドへ繋がれる。



「紅羽、俺ね今怒ってるの。分かる? 男はべらせて、俺には隠し事するし嘘つくしさ」



「違いますっ……はべらせて、なんか……」



現に、美都は女の子だし。でも、先輩からしたら男なわけで。



先輩の目に光が失われていく様を見て、どんどん焦りが出てくる。



最初の頃の怖さが、段々蘇ってくるくらい、今の先輩は危ない。



ガタガタと体が震え始め、涙が滲む。



「泣くなよ。泣きたいのはこっちなんだけどね」



先輩が自分のベルトを外す音が、妙に大きく耳に届く。



落ち着き過ぎている先輩の声が、私を徐々に追い詰めてくる。



「しっかり御奉仕出来たら、少しくらいは優しくしてあげてもいいよ? ほら、舐めてよ」



先輩が自らのモノを私の顔に近づける。



私は、おずおずと口を開いて咥えた。



何度かした事はあるけれど、慣れているわけじゃないうえに、今の状況では余計に上手く出来ず、泣きながら呻く。



「はぁ……もういいよ。じゃ、お仕置きね。しっかり意識保ってね、痛いからさっ!」



「ひっ、ぃ、ああぁぁあぁっ!」



慣らす事もせずに、先輩が押し入ってくる。



尋常じゃない痛みに、悲鳴に似た喘ぎを漏らし、腰が逃げるけれど、それを許さない先輩の手が、腰をしっかり掴んだ。



「こらっ、逃げるなよっ……んっ、痛いのは、そっちだけじゃないんだからさっ……っ……きっつ……はぁ……」



眉を寄せて声を漏らした先輩が、動き始める。



「ぃっ、痛いっ、せんぱっ、先輩っ、いっ、やだっ……やめっ……」



「お仕置きって、言ったでしょっ? 痛くなきゃ意味ないじゃん。んっ……でもっ、おかしいなぁ……やめてって言うわりに、中、濡れてきてるけど?」



楽しそうに言う先輩の言葉に、私は信じられない思いだった。



自分でも分かる。



凄く痛いのに、どうして感じてるのか。



私の体は、一体どうなっているんだろう。



「こんな痛みすら、気持ちいいの? ほんとに紅羽は可愛いねっ……っ、俺も、ぁあっ……気持ちいいよっ……はっ……ンっ……」



数回強く腰を打ち付け、私が達した事に嬉しそうな顔で笑った先輩が、私の中から出ていった。



名残惜しむように、私のソコはひくついていて、また涙が出た。



「ちょっと待ってて。もっと一緒に気持ちよくなれるように、準備するね」



相変わらず光のない目で笑い、先輩はゴソゴソと引き出しを漁って何かしている。



泣いて大きく息をしながら、私はそれをただ見ているしかなかった。



先輩が戻って来て、顎を掴まれてキスをされる。



舌が入って来て、何かが喉を通過する。



「うん、上手に飲めたね。いい子だよ」



「な、に?」



「ん〜? いいモノだよ。気持ちよくなれるお薬」



ニヤリと笑う先輩に、ゾクリとする。



「さぁ、当分はこの部屋から出られなくなるけど、別にいいよね? いっぱい二人で気持ちよくなろうね? たくさん可愛がってあげるからね、紅羽」



狂ってる。



先輩は、どうしてこんな事をするんだろう。



私に何を求めているのか。



私は、どうしたらいいんだろう。



ぐるぐると色んな思いを巡らせていても、答えは全然分からなくて、そうしている間に、私の思考は普通を保てなくなっていた。

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