第四章

第17話

いつも通り過ぎて、怖いくらいだ。



授業を受け、お昼を食べる。



ただ、お昼の相手が美都から先輩に変わったけれど。



まるで介護かと言わんばかりに、私はずっとお箸でおかずを挟んでは、先輩の口に持っていくを繰り返している。



何だか、変な光景だ。



「紅羽はほんとに料理上手だよね。胃袋まで掴まれちゃったら、俺もう紅羽いないと生きてけない気がする」



「大袈裟な。このくらいのレベルなら、誰でもできますよ。そんな難しい事なんてしてないですから」



特に手の込んだものを作っているわけではないのに、こんなにも褒めてくれるのは悪い気はしないけれど、照れてしまう。



お弁当も食べ終えて、まったりとしていると、不意に違和感を感じた。



足に何か触っている気がする。



「……先輩……その触り方やめて下さい」



「何でさ。いいじゃん」



自然に膝枕の体勢で寝転がった先輩は、私の太ももを撫でている。



くすぐったくて、ゾワゾワして身を捩った。



「くすぐったいの? それとも……」



「んっ……ゃ……」



「やらしい声、出てるけど?」



触り方がいやらしく撫でるように、足を滑る。



日に日に、先輩に触られて求められる事が、嫌じゃなくなってきていて、自分でもよく分からない感情が生まれている気がする。



最初の頃の抵抗が嘘のように、今はほとんど抵抗しなくなっていた。



「紅羽から、キス、してくんない?」



どうしてこの人は、こんなにも悲しい顔でそんな事言うんだろう。



時折見せる悲しい顔。この顔を見る度に、胸が締め付けられる。



私は体を折り曲げて、先輩の唇に自分の唇を押し当てた。



触れるだけのキス。



私にはこれが精一杯。



「口、開けて」



言われるがまま口を少し開くと、温かい舌がスルリと入ってくる。



お互いの舌を味わうかのように、ねっとりと絡める。



「はぁ……ぅんっ……ンっ……」



あっという間に押し倒され、キスが深くなる。



「やばいなぁ……興奮してきたっ……食後の運動、しよっか」



拒む理由はなく、私は先輩の首に手を回した。



満足そうに笑って、先輩の顔が近づいて来る。



しつこいくらいに続く先輩のキスを、今では素直に受け入れていた。



先輩に慣れてしまった体は、痛みも快感で、私は完全に溺れていた。



「紅羽……これっ、好きだよねっ……んっ……はぁ……乳首抓られてっ、奥、思いっきり突き上げられるとっ……あっ……中、めっちゃ締まるっ……」



何もかもが気持ちよくて、胸の突起を抓られて、爪を立てられると、体をしならせて達してしまう。



そこに追い打ちをかけるように、最奥を突かれると、あられもない声を上げた。



目の前がチカチカして、頭が真っ白になる。



言葉にならない快感に、頭がおかしくなりそうだ。



「ダメっ、今イっ、てる……イってるっ、からぁっ……やあぁっ、だめだめだ……めぇっ!」



激しく痙攣して連発で達した私の体を、容赦なく揺さぶって、突き続ける。



呼吸がしたくて、喉を震わせて空気を求めるように口をパクパクとさせる。



「はぁ……あぁ〜……可愛い……可愛いよ、紅羽っ……。ねぇ、もっと、いっぱいイカせてあげるから……もっともっと、一緒に気持ちよくなろうね……」



先輩の囁きに、反射的に頷く私の意識は、ほとんど消えかけていて、それでも体は先輩が与える痛みと快楽を、もっともっとと求めていて。



先輩に縋り付きながら、また激しく揺さぶられて、何度も達する。



「ねぇ……名前、呼んでっ、好きって言ってみて……」



「るっ、い……あぁっ、累っ、あっ、好きっ、好きぃっ……」



訳が分からず狂ったようにそう言葉にする私に、先輩は一瞬驚いたような顔をして、すぐに苦しそうな顔で呻いた。



「嘘だろっ、くっ、ぅ……やばっ、ぁっ、ああぁっ……」



先輩の体が震えて、私の中に温かいモノが広がる感覚がして、同時にキツく抱きしめられた私はまた果てた。



「はぁ〜……ふっ、まさかっ……紅羽にイカされるとは……思わなかったな……」



髪を掻き上げて、私の前髪を撫でて笑う先輩は、少し楽しそうだった。



優しいキスが額に落ちる。



私は先輩の頬にゆっくりと触れると、先輩の体がビクリと震えた。



「……な、何? どうしたの?」



「今日は顔色……いいですね……」



「え、そう、かな?」



驚いて少しオドオドしている先輩が珍しくて、笑ってしまう。



ここの所、先輩の色んな顔を見せてくれる事に、嬉しさもあった。



奴隷としての特別とはまた違う特別が、あるような気がしていた。



でも、不思議な関係の私達の間には、一体何があるんだろう。



自分の気持ちも、先輩の気持ちも、まだはっきりしない。



それでも、先輩に惹かれ始めている自分もいて。



私は、どうしたいのだろう。



先輩は、どうするんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る