第16話
初めて抱かれた日から、言葉通りに先輩は毎日のように私を抱いた。
それは、日に日に回数を増やしていった。
体力のあまりない私は、少しキツくはあったけれど、自分から言った手前、拒む事はしなかった。
自分から言ったから。それは、ほんとにそう思ってるからなのか、ただ彼に抱かれる事に喜んでいるのか、よく分からなくなってきているのも事実で。
「ほらっ、もっと、しっかり腰っ、振って……はぁ……ん、そぅ……」
「あぁっ、んっ、はっ、ぁっ……」
四つん這いになって、後ろから先輩に挿入されたまま、私は言われるがまま腰を動かしながら喘ぐ。
先輩に知り尽くされた体は、何をされても快楽を感じるようになって来ていた。
そう、痛みすらも。
後ろから激しく突かれながら、お尻を叩く彼の手にすら反応してしまういやらしい体になってしまった。
凄く、気持ちがいい。
「こんなにっ、相性っ、んっ、いいんじゃっ、ぁ、はぁ……もう、離してあげらんない、な」
先輩が何か言っているけれど、私の耳にはほとんど届いてはいなかった。
数回抱かれた後、私は相変わらず気を失っていたようで、目を覚ますと先輩が眠る私の横で、私にしがみついて眠っていた。
汚れた体は、私が目を覚ますと毎回綺麗にされている。先輩はそんな事までしてくれるのだ。
奴隷という位置で一緒にいるのを、忘れてしまいそうになる。
先輩も、私を奴隷だと認識しているのだろうかと、疑問が浮かぶ。
綺麗な寝顔を見ていると、長いまつ毛が揺れて、目が開いた。
「体、大丈夫? ごめんね、毎回気持ちよすぎて、夢中になっちゃうんだよね」
「はい。大丈夫です」
困ったように笑う先輩が、可愛く見えてしまう辺り、私もだいぶ先輩に毒されている。
触れるだけのキスをされる。
「あの、その……今日も、しんどく、ないんですか?」
「ん? あぁ、うん。なんだろうね、不思議なんだけど、紅羽とシた時ってさ、辛さとか気分の悪さとかないんだよね。う〜ん、やっぱり香水? それとも、相性かな」
目だけで宙を見上げながら、先輩は悩む素振りを見せる。
確かに女の子との行為の後の、顔色の悪さも、辛そうな感じもない。不思議な人だ。
私が体を起こし、服を整えていると先輩のスマホが震えた。
画面を見た先輩の体が、ビクリと強ばったのが分かった。
まただ。
いつも誰からか分からない着信やメッセージに、先輩は緊張を見せる。
最近その相手が、お母さんなのだと知った。
理由までは分からないし、聞く訳にもいかなくて。
私には聞く権利も、できる事もない。
今はそれが少し歯痒くて、何も出来ない事にもどかしさを覚えていた。
「え? いや……はい……分かりました、すぐに……」
眉間に皺を寄せて電話を終了する先輩が、凄く辛そうで、手を伸ばさずにはいられなかった。
「先輩……」
「っ、なんて顔してんの……大丈夫だよ」
それはこっちのセリフだ。先輩の顔の方が酷いのに。
私には、なんの力もない。
彼にこんな顔をさせる原因を取り除いてあげる事も、辛さをやわらげてあげる事も、何も出来ない。
カバンを持って、立ち上がる。
「俺、行かなきゃいけないから。またね」
無理矢理笑って、私に向けた大きいのに細くて弱々しい背中が、まるで助けてと言っているみたいで、無性に抱きしめたくなって、手を伸ばしそうになったけれど、しなかった。
出来なかった。
今の私には、何も言ってあげれなかったから。
無力なのがこんなにもしんどい事なのだと、私は初めて知った。
助けたい人がいるのに、何も出来ない。
けれどせめて、彼が安心して帰れる場所、安らげる場所が私であればいいと、そう思った。
彼の香りが残るベッドへ、また体を戻して顔を埋めて目を閉じる。
彼が壊れてしまう前に、私に何かできる事があるのか。
どうかと、今は祈る事しか出来なくて、自然と涙が零れて、私は声を殺して泣いていた。
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