第15話
私が先輩のモノになると志願してから、先輩は本当に女の子とそういう事をするのをやめた。
そう、誰ともしなくなったのだ。
という事は、今までそちらに行っていた欲は、私に来るというわけで。
「そんなに緊張しないで。そこまでガチガチになられると困るな」
苦笑しながら、優しく髪を撫でてくれる手がいつもみたいに、相変わらず冷たい。
「何か、こうやって初めからちゃんとするのが久しぶりだから、ちょっと緊張するね」
私は初めてだ。
手馴れた先輩でも、緊張なんてするのかと思うとちょっと笑えてくる。
「こら、何笑ってんの。へぇ、なかなか余裕じゃん」
「余裕なんか、ないですっ……恥ずかしくて死にそうです……」
恥ずかしくて、少し怖くて、どうしたらいいのか分からずに目を逸らす。
顔が、体が、熱い。
ゆっくりベッドへ寝かされ、また髪を撫でられる。
その目は凄く優しくて、愛おしそうな顔で微笑んだ。
「優しくするから、安心してね」
怖かったハズのこの人が、異常な程に優しいから、体から力が抜けていく。
近づいてくる綺麗な顔に見惚れていると、ゆっくり触れる唇。
何度もちゅっと音を立てながらされる、触れるだけのキス。
そして、唇の間を割って入ってくる、冷たい手とは正反対の熱い舌。
まるで違う生き物のように蠢いて、口の中で暴れ回る舌に翻弄されながら、同じように舌を絡ませる。
飲み込み切れなかったどちらのともつかない唾液が、口の端から零れて顎へと伝い落ちた。
「はぁ……そう、この顔……いいね……たまんない……」
親指で下唇を撫でられ、噛まれ、塞がれる。
ゾクゾクした感覚が背中を走り、体がビクリと震えた。
先輩のキスは気持ちいい。気持ちよすぎて困る。
「キス……気持ちい? すっごい気持ちよさそう……キスだけでトロトロだね……」
「んぅっ……ンっ……」
言われた通り、私は意識が朦朧として頭が働かない。
何も答えられず、小さな喘ぎと荒い息だけが口から放たれる。
その間にも、先輩は私の服を脱がし始めていた。
キスの合間に耳、首筋、鎖骨へと先輩の唇が這う度に、体がビクビクと波打つ。
先輩が言った通り、先輩は凄く優しくて、手がまるで愛おしそうに私に触れるから、少し変な気持ちになる。
上の服がはだけて、肌が露になって、下着まで剥ぎ取られてしまう。
恥ずかしいのに、その先を期待する自分もいて。
両方の胸を、手と口で愛撫され、再び新しい感覚に体をしならせる。
「ああぁっ!」
「痛い? いや、気持ちいい、のかな? 痛いって声じゃなかったよね……やっぱり君は素質あるね……」
突然胸の突起に先輩の歯が立てられ、体中に電流が流れたみたいになって、大きく体を震わせて高い声で啼いた。
こんな声は、知らない。
舐めたり口の中で転がされたり、そしてまた噛まれたりを繰り返され、感じた事のない感覚に喘ぐしか出来ない私は、どこか物足りない様な、歯痒くて両足をモジモジと擦ってしまう。
「ここも、触って欲しい? じゃ、せっかくだから、おねだり覚えようか……」
心底楽しそうに言った先輩の表情が妙に妖艶で、何が行われるか分からない未知の世界を知る事にゾクリと体中が粟立った。
私は変だ。
先輩と一緒にいる時間が長すぎたから、彼の毒が回ったんだ。
先輩が与える痛みと怖さを、どこかで期待している。
このままじゃ駄目なのに、拒む事も逃げる事も出来ない。
いや、出来ないんじゃない、しないんだ。
自分の中の何かが、それを楽しんでいるみたいで、私は自分が自分じゃなくなるような底知れぬ恐怖を感じていた。
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