第14話
気づいたら、私の視界は反転していて、先輩が私に覆いかぶさっていた。
訳がわからず、私はただ先輩を見つめていた。
最初の頃の怖さが全くなくて、されるがままになっている私に、先輩が苦笑する。
「ほんと君って変なとこ根性あるよね。さすがお姉ちゃん」
「ふふ、何ですかそれ」
「でも、俺はお姉ちゃんより……」
顔が近づいてくる。私は避ける事も、拒む事もしない。
何故かなんて分からないし、今はどうでもよかった。
「俺だけの存在が、欲しいんだよね……」
唇が重なる。
触れるだけのキスが何度かあった後、深くなるキスを受け入れる。
この気持ちは、本当になんなんだろう。
長いキスが終わり、唇が離れる。
名残惜しいような感覚に、先輩を見つめてしまう。
「そんな顔しないでよ、止まらなくなる」
「先輩の、先輩だけの存在になれば、先輩は……辛くなくなりますか?」
自然と出た言葉だった。
先輩の苦しさを、辛さを少しでも和らげてあげたくて。
私にそれが出来るならと、そう素直に思ったんだ。
目の前で、驚きに固まっている先輩を、まっすぐ見据えた。
「それ、言ってる意味、分かってる?」
「もちろんです。分からないなら、言いません」
「専属奴隷だからって意味じゃないよ?」
「分かってますってば。その代わり、出来るだけ他の子とその……そういう事するのを、控え目にして下さいね……」
先輩が苦しむ姿を見るのは、いい気分じゃない。
「何、ヤキモチ?」
「違います。だって先輩、そういう事した後、必ずしんどくなるでしょ? 辛そうな先輩を見るのが、嫌なだけです……」
私が言った言葉に先輩は苦笑した。
「ほんと、君って優しいよね。この優しさに裏がないからいいな。他の子はみんな見返りを求めるから」
苦しそうな、切なそうな顔で笑う。
今まで先輩がどれだけの女の子に、応えてきたのだろう。
先輩はきっと、凄く優しくて、臆病で、寂しがり屋なんだ。
「したくないのに、しなくていいです。傍に誰かが必要なら私がいます。一緒に寝て欲しいなら寝ます。そういう事が、し、したいなら……出来るだけ……します。だから……自分をいじめないで下さい」
「いじめるって……クククッ……面白いね、君は」
特に何が面白いのかとかよく分からないけれど、少し楽しそうだから、これでいい。
私を組み敷いたまま、先輩は私の前髪を撫でる。
穏やかに、微笑みながら。
「分かった。じゃ、せっかく君が申し出てくれたわけだし、お言葉に甘えようかな」
「はい。甘えて下さい」
「ただ、俺昔から依存度が高いのか、気に入ったらかなり執着するけど、大丈夫? それなりの覚悟がいると思うよ」
覚悟。
入谷先輩にも言われた言葉。
生半可な気持ちで、東部先輩を知ろうとするべきじゃないと。
分かっている。先輩の闇が深くて、そう簡単に取り除いてあげれるわけじゃないって事も。
分かっている、はずだった。
いや、知ったつもりだったんだ。
入谷先輩が言った言葉、東部先輩が隠している闇は私が思っているよりずっとずっと、重くて深かった。
歪んだ愛情しか知らない先輩の執着、依存。
それを私は、身をもって知る事になる。
覚悟が、甘かったという事実と共に。
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