第12話

最近の東部先輩は、少し変わった。



最初の頃の怖さが少なくなった。でも、やっぱり女の子とのソレはやめる事はなかった。



もちろん、私を傍において眠る事も忘れない。



それより、一番気になっているのは、前より少しスキンシップがエスカレートしてきている気もしないでもない。



乱れた制服、色の悪い顔、疲れた姿。



「そんなにしんどいんなら……やめればいいのに……」



私の腰にしがみつき、眠る東部先輩を見ながら、そう呟いた。



「じゃ、君がその分相手してくれんの?」



「っ!? 寝てたんじゃっ……」



「今起きた。君といると、どうしても寝すぎちゃうんだよね……もう、ぐっすり」



眠そうに欠伸をして、目を擦る姿はまるで子供みたいで、年上とは思えない。



そのまま私と向かい合うように座り、首を傾げる。



「で? どうなの?」



髪を少し束ねて指に絡め、口付ける。



目は挑発するように、誘惑するように私を捉えていた。



心臓が早くなる。



明らかに、最近の東部先輩からは怖さを感じる事はほとんどなくて、最初の頃とは比べ物にならないくらい優しくて、乱暴や痛い事もされなくなって、少し噛まれる事くらいはあっても、大切にされている気がした。



だからなのか、本当に少しだけ嫌いじゃなくなってきているのは確かだ。



でもいまだに、この人の行動には謎が多い。



「紅羽が相手してくれるなら、俺はもう紅羽以外とはヤらないけど……どうする?」



今まで散々遊んできて、果たしてそんな事が可能なんだろうか。



私から見たら、彼の女遊びはもう癖の域を超えて、もう中毒になっている気がする。



「もし私がその条件を飲んだとしても、先輩は私一人で満足出来るんですか?」



これは普通に素朴な疑問。



だって、私は先輩の周りにいるような女の子みたいに、経験豊富でもないし、先輩が満足するような事は出来ない。



「私は綺麗でもないし、特別可愛いわけでもないし、その……そういう事は、した事……ないので……先輩のご期待には……答えられないと思います……」



ブツブツと口篭る私を見ていた東部先輩が、何が面白いのか吹き出した。



「ぷっ……あははははっ! 君ってっ……ほんとっ……」



「なっ、何が可笑しいんですかっ!?」



ひとしきり笑って、私を見た。



「いや、だって、まさかそんなに真剣に考えてくれると思わなくて……ちょっと嬉しくなっちゃって。ていうかさ、君俺の事嫌いじゃなかった?」



「先輩、怖いし……最初は、好きではなかったですけど……今は……そんなに、嫌いでも、ないです……」



私の両手を優しく握って、初めて見せる顔で笑う。



何だろう、この顔は。私はこの表情をしていた人を、知っている。



おばあちゃんと、同じ顔だ。



「そっか……。じゃぁ、うんと優しくして、うんと甘やかしたら、君は……」



鼻がくっつきそうな位置まで顔が近づいた時だった。



―――ブーブーブー……。



先輩のスマホが鳴る。



ため息を吐いた先輩がスマホ画面を見た瞬間、顔が強ばった。



確実に怯えた顔。



一体誰からの連絡に、そんなに怯えているんだろう。



この間、入谷先輩が伝言を伝えに来た時の事を思い出すと、相手がお父さんじゃないのだけは分かる。



「ごめんね、時間だ。俺、行くとこあるから、今日はもう解散ね」



先輩は何を言おうとしたのか、続きは気になるけれど、それより今は、先輩のこの無理やりに笑っている顔が気になる。



「あの……大丈夫、ですか?」



「何が?」



隠したい時の先輩の態度は、どんな風なのかが分かってきていて、それを無視出来ない程に、私は先輩が気になってきている。



それがただの好奇心なのか、同情なのかは分からないでいる。

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