第7話

授業を終えて昼休み、中庭で美都とご飯を一緒に食べている。



「やっぱり美都といるのが一番癒される」



「こっちのセリフね、それ。完全にあんたのが癒し系じゃん」



美都は自分がどれだけ癒される人間なのか、分かってない。



美人だし、器用だし、一通りの事は出来てしまう程には、無駄に女子力が高い。



男の子のフリをしてなければ、男の子にモテモテだっただろう。今は女子にモテモテだけれど。



ただ、料理だけが壊滅的だという。



「そういえば、東部先輩は? 酷い事されてない? あの人、あんまりいい噂聞かないから」



「あ、うん、大丈夫。怒らせる事さえしなきゃ、特には」



「怒らせたら何されるか分からないってのも、それはそれで困りものだね」



「まだ手探りなんだよね。あの人、難しいから」



卵焼きを突つきながら、あの気だるそうな顔を思い出す。



ゆったりした口調で調子よくヘラヘラ笑ったり、寂しそうで傷ついたような顔をしたり、不思議で怖くてよく分からない人。



ブロッコリーを口に入れて、またため息を吐いた。



いつ連絡がくるのか、それが不安で仕方ない。



出来るだけあまり一緒にいたくない。



「美都が主ならよかったのに……」



「ははは、嬉しい事を言ってくれるね。でも、俺は友達の方がいいかな」



「確かに。友達じゃないと、こんな風に気楽じゃいられないもんね」



美都は自分の事を俺と言う。まぁ、女の子というのを隠していたいみたいだから、仕方ないけれど。



いつか、ありのままの彼女と笑えるようになれるかな。



「そういえば、入谷先輩って美都の性別の事知ってるの?」



「最近バレた。色々あって」



そう言って苦笑した。



でも入谷先輩はあまり酷い事しないような気がする。



派手な見た目な割に、鳳月先輩の奴隷の人にも優しくしてたし。



まぁ、好意を持っていたみたいだから、分からないけれど。



「でも、隠してくれてるんだよね?」



「まぁ、人の事にごちゃごちゃ言うような人じゃないからね。特に何かされるわけでもないし。今のところは平和かな」



「そっか。それはよかった。私も大好きな美都の秘密は、ちゃんと守るからねっ!」



「クスッ、ありがとう。俺も大好きだよ」



笑い合って、最後のおかずをお箸で摘んで口に運んだ。



はずだった。



「おっ、これ、うま。へぇ〜、君等デキてんの? 何か、気に入らないなぁ」



突然現れた東部先輩は、私のおかずを食べ終え、にこやかに笑う。



満面の笑顔。こんなに怖い笑顔は、初めてだ。



お箸を持つ手が震える。



「東部先輩、誤解しないで下さい。彼女とは友達ですよ」



「またまた〜、熱い告白し合ってたのに」



「そりゃ友達ですから、好きくらいは言いますよ」



物怖じしない美都を凄いと思いながらも、私はこの後自分がどうなるのかが、怖くて仕方なかった。



「そういう事にしとこうか。さぁ、それじゃ、ご飯終わったよね? いこっか」



「え?」



有無を言わせない態度で、私を笑顔で見る東部先輩。



怖い。この笑顔は偽物だと、分かるから怖い。



体の震えに気づかれないように、美都に断りを入れて立ち上がる。



前を歩く東部先輩は、相変わらず言葉を発する事はなく、ただ前を歩いている。



行く先は当たり前のように、あの部屋だ。



辿り着いた時、扉を開いた東部先輩は、私に先に入るよう促した。



相変わらず笑顔だ。東部先輩の綺麗な人に笑顔を向けられたら、多分誰も彼もが目を奪われ、心を持っていかれるだろう。



だけど、私には恐怖でしかない。



そこにあるのは、黒い笑み。爽やかさとか、素直な笑みなどではない。



怖くて仕方ない。



カチャリと背後で鍵の閉まる音がした。



「震えてるね……俺が怖い? それとも、何をされるか分からないから怖い?」



震える体。肩にかかる手に体がビクンと跳ねる。それを楽しむように、笑っているであろう声が、耳元で囁かれる。



「大丈夫だよ。痛い事が好きなのは否定しないけど、殴ったりはしないから……」



クスリと笑い、私の横を通り過ぎてソファーに座る。



その目は私から離される事はなかった。



「俺が与える痛みはね、ちゃんと快楽に変わるから、安心してね」



何に安心出来るのか、さっぱり訳が分からない。



「今までの子は、痛みに快感を覚えすぎて壊れちゃった子もいたけど……君はどうかな?」



そう言って笑った東部先輩は、悪魔のようだった。



足が震えて立っているのがやっとだった。

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