第4話

上靴を取ろうと扉を開くと、私は固まった。



汚された上靴とゴミが入っていた。



「何これ……酷いな」



「え?」



背後から声がして、振り返ると男子生徒と目が合った。



色素の薄い茶色の綺麗な髪に、クールで物静かな印象の、だけど何処か色気のある中性的で格好いい人。



見覚えがあった顔だけれど、それより私の目を引いたのは、私と同じで、首にある首輪だった。



奴隷側の人。



確か、入谷先輩の専属奴隷。



「逆恨みってやつ? ほんと、女ってくだらないよね」



心底嫌そうな顔で眉を潜めた彼は「ちょっと待って」と言って、私の前に綺麗な上靴を差し出した。



不思議に思った私は彼を見つめる。そんな私に少しだけ、ほんとに少しだけ笑って言った。



「いいタイミングだった。昨日新しく新調したやつだから、安心して使っていいよ。俺はスリッパ使うから」



「そ、そんな事出来ませんっ!」



「大丈夫だよ。俺の足、そんな大きくないから」



そう言って手に握らされた上靴を返す暇もなく、彼は去っていってしまった。



どうしようと考えながら、せっかくの好意を無下にできず、甘える事にした。



そして、大惨事になっている靴箱を見てため息を吐く。



通り過ぎる人達の笑う声や、ヒソヒソする声がやけに大きく聞こえる。



恥ずかしさと、悔しさで泣きそうになる私の耳に、スリッパの音。



振り返ると、ゴミ箱を持って先程の彼が戻って来た。



「まだいたの? 片付けるから、ちょっとどいててくれる?」



やんわりと体を押され、手際よく片付ける彼をただ呆然と眺めてしまう。



この人は、どうして他人の為にここまで出来るのだろうか。



「あのっ、私がやります、からっ……」



「いいから、甘えときなって」



さすがに全部を任せっきりには出来なくて、一緒に片付けながら、お互いの自己紹介をした。



彼は城戸美都きどみやび君。同じ一年で、隣のクラスだ。



この日以来、私は彼とよく話すようになった。



お互い、主があまり私達を呼び出さないから、しょっちゅう二人でいる事が多かった。



「友達になって下さい」



そう言われて、すぐに頷いた。



そして、私は知ってしまった。彼の秘密を。



それは、ある雨の日。



二人揃って傘を忘れ、近かった私の寮の部屋へ向かった日。



バスルームへ案内した後、シャワーの音がしてから、着替えを用意して持って行った時、まだ彼は脱衣場にいた。



鉢合わせ。



彼は、上半身裸だった。



「あ……バレちゃったね……」



男性にしては膨らんだ胸。細い腰のしなやかで女性的な体。



「隠してて、ごめんね。私、女なんだ」



言葉が出なかった。



困ったように笑った、男の子だと思っていた女の子。



彼、いや、彼女には、何か理由があって性別を偽っているんだ。



黙っていて欲しいと頼まれたけれど、元々誰かに言うつもりもないし、頼まれなくても大丈夫だと答えた。



誰にだって、秘密はある。誰にだって。



「こんな私でも、友達で……いてくれる?」



「もちろんっ! 性別で友達になったんじゃないよ」



こうして、私達は秘密を共有するようになった。



そんな中、久しぶりにあの人からの呼び出しがあった。



私は、緊張しながら彼の待つ場所へ向かった。

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