第27話
隣に林田君、前に向井さんと、何故か向井さんの隣に、いつの間にか現れていた磯井君という、何とも言えない空間ができていた。
非常に気まずい。
「なるほどな。彼があの焦がれて忘れられへん愛しの彼か」
「くっそ。何で今更出てくんねん……」
呆れた顔の向井さんと膨れっ面の磯井君。そして、凄く見つめてくる林田君。
「どこにいてもお前の周りには、やたらと男が集まるな。一体何のフェロモン出してるんだお前は」
「フェッ……フェロモンて……林田君が、フェロモンって言った……」
ちょっと、可愛い。真面目で無愛想な顔でフェロモンて。
「何笑ってる」
「だって、林田君の口から、フェロモンて……ふっ……あはははははっ!」
駄目だ。
「唯栞ちゃんがこんなに笑ってんの、初めて見たわ」
「唯栞笑わすんは俺のはずやったのに……」
楽しそうな向井さんと、まだブーブー言っている磯井君に苦笑する。
奥島君も磯井君も、何でこうも好きだと言ってくれるのか。
ほんとにフェロモン出てるのか。気になって仕方ない。変なもの出てたらどうしよう。凄く困る。
「唯栞ちゃん、帰んの?」
「学校辞めたし、帰る場所なんて……」
「学校は休学扱いにしてる。帰る場所はあるだろ。お前は何も考えずに、俺のところに戻って来い」
まっすぐぶつけてくる言葉。
これだ。この人の、このまっすぐな所にどうしようもなく、惹かれる。
やっぱり、勝てないな。惚れた弱みってやつだな。
でも、彼の元から逃げたのに、こんなにも素直にすんなり戻っていいものか。
本心はもちろん戻りたい。彼のそばにいられたら、私にはこんなに嬉しい事はない。
「少し、考えさせて、欲しい……」
「何を考える事がある。もう奴隷制度も終わった。俺はお前が好きで、お前も俺と同じ気持ちなら、なんの問題もないだろう」
それはそうなんだけど。
理屈じゃないというか、なんというか。
「まぁ、急いでもしゃーないしな。とりあえず林田君も観光ついでにもう少しこっちにおったら? 別に急いでへんねやろ?」
「向井さんっ! 何でこんな奴にっ……」
そう言った磯井君は向井さんに頭をはたかれて、またブーブー言っていた。
「とりあえず泊まるとこ決めてへんねやったら、部屋あるからここに泊まっていき」
「それやったら、俺も泊まるっ!」
という事で、何故か林田君と磯井君も泊まる事になった。
何だかんだで林田君も磯井君も、少しずつ慣れてきたようで、晩御飯が終わる頃には妙に仲良くなっていた。
男の子ってほんと不思議だ。
みんな寝静まった頃、私は林田君がいると思うと緊張してしまってなかなか寝つけず、布団の中でゴロゴロしていると、部屋がノックされる。
「林田君……」
扉を開けた瞬間、そのまま体を抱きすくめられ、なだれ込むように部屋へ入り、扉を閉じた。
「はやっ……んっ、ふぅっ、はっ、ンんっ」
「唯栞っ……ずっと、こうして触れたかった」
興奮。欲情。
荒々しいキスと熱に、何も考えられなくなる。
頭が、働かない。
久しぶりの彼の熱さが一気に体に流れ込んで、体に刷り込まれた感覚が蘇る。
「声、我慢してくれ。今更だが、他の奴には聞かせたくない」
キスをされたまま押し倒され、急いたように服の中に手が入ってくる。
「んっ、はぁ……」
「この綺麗な体も、可愛い声も、ずっと、ずっと、欲しかったっ……」
言うなと言われたけれど、こんな場所まで探しに来てくれる彼に、どうして私なんてとか、どこがとか、色々考えてしまう。
「こんな時に、考え事か? まさか、他の男の事を……」
「ぁっ、ん、ち、違うっ……あの、好きって、いつからっ……」
一瞬眉間に皺が寄った事に焦って、早口になる。
「今考えると、割と早い段階でだな。他の生徒を庇って言ったお前のまっすぐな目が、今でも忘れられないぐらいには、最初から気になっていた。俺の知らない場所でお前が他の男に抱かれる事が嫌で、奥島にすら嫉妬して、独り占めしたいと思い始めて、そこからは、あっという間だった」
そんな事になっていたなんて知らなくて、恥ずかしさで顔に熱が集まる。
両手で顔を隠していても、簡単に解かれてしまう。
「何だ、照れてるのか? 可愛いな」
「やっ! 今っ、酷い顔してるからっ、見ないでっ……」
「隠すな。お前の全部が見たい……」
こんなにも甘くて優しい声が、私にだけ向けられている。
幸せすぎて、死んでしまう。
「嬉しすぎて……好きがいっぱいでっ……どうしよっ……」
「っ!? なんて顔してるんだっ……もっとゆっくりするつもりだったが、無理だ。我慢出来ない。優しくもしてやれないっ……限界だ」
切羽詰まったようにズボンを脱ぎ捨て、昂った彼のモノが、私の濡れたソコへ宛てがわれる。
「入れるぞ……」
「ぅん……来て……欲しいっ……」
林田君に両手を差し出して、懇願する。
「ぅンんんっ! はぁ……ぁっ……」
「っ、キツいなっ……ここ、寂しかったか?」
「やぁ……んぅっ……ンっ……」
耳元で低く響く彼の声が、私を煽る。
熱くて、甘くて、体中がもっとと疼く。
「声っ、聞けないのは残念だがっ……んっ、我慢してるお前もっ、なかなかクるものがっ、あるなっ……はぁ……」
「ふっ、ぁ……ンっ……」
奥まで激しく突かれる度に、我慢出来ない声が漏れてしまう。
聞かれたら困るのに、声を殺す事が難しくなってくる。
「声っ、でちゃっ……ぅんんンっ、はっ、林田、君っ……」
「口、塞いでやろうかっ……ん?」
「キスっ、欲しっ……」
ねだるように首に手を回す。
お互いが食いつくキス。
激しく求め合って、溶けてしまいそう。
絡まる舌が、熱くて、夢中で食らいつく。
「んっ、んぅっ、はぁっ、ふっ……っ、はっ、ぁうっ……」
「このままっ、一気にっ……ンんっ」
林田君の動きが早くなって、激しく揺さぶられて、頭が朦朧としてくる。
「きっ……好きっ、はっ……ンんっ、ぁあっ、ま、ことっ……好きぃ……」
「おまっ、急に、名前っ、クソっ……」
肉がぶつかる音といやらしい水音が、やけに大きく聞こえて、肌が粟立つ。
声を我慢するとか、バレないようにとか、もうどうでもよくなってくる。
全身で彼の全てを求める。
外が明るくなるまで、汗だくになりながら、私達は抱き合っていた。
離れていた時間を取り戻すかのように。
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