第25話
〔林田side〕
唯栞の様子が変で、捕まえる。
泣きながら、処理をするのがもう嫌だと訴える体が、小さく感じて、こんなに辛い思いをさせた不甲斐ない自分に腹立たしさを覚え、震える女を抱く手に力を入れた。
家まで連れ帰って、それで満足した俺が馬鹿だった。
最後の最後まで、様子が変だったのを、放って置いたのが間違いだ。
こんなに後悔した事は、生まれて初めてだった。
「誠様、これが」
渡された紙には、女らしい字が並んでいた。
感謝と謝罪。
「奴隷を……やめる?」
奴隷を辞めるという事は、学校も去らなければならないのは、あいつも知っているはずだ。
嫌な予感がする。
少し早いけれど、身支度を済ませて、朝食も取らずに学校へ向かう。
そして俺の悪い予感は、当たってしまった。
唯栞が奴隷を辞めて、学校も辞めたと言う。
何も言わず、少しのメモだけを残して、唯栞は俺の前から消えた。
「林田」
「奥島か、何だ?」
校長と話をした後、奥島に声を掛けられる。
「唯栞、学校辞めたって、マジなの?」
「らしいな。状況を確認したいと、とりあえずは休学にしてもらった」
いつもヘラヘラしているコイツの、こんな真面目で不機嫌そうな顔は初めて見る。
「お前さ、唯栞が消えた理由、まさか分かってねぇの?」
からかうわけでも、面白がるわけでもなく、相変わらず不機嫌そうな顔のままそう言った。
こいつは何を知っている。
俺よりアイツに近い男。
感情が、自分の意志とは別に黒く染っていく。
嫉妬。独占欲。
最初は、自分には初めての感情に意味が分からず戸惑った。
それ以上に、日に日に募る唯栞への愛おしさが、全てをかき消して行った。
一人の女に酔って、溺れる。
そんなにも欲しくて焦がれる女を、諦められるわけがない。
どんな手を使っても手に入れる。
そして、今度こそ逃がさない。
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