第六章

第24話

いい香りが鼻をついた。



ゆっくり目を開ける。



「起きられましたか? おはようございます」



と言われたけれど、外は暗かった。



「おはよう、ございます」



「お腹はいかがですか? お食事のご用意をいたします」



立花さんが去った後、ボーっとする頭をスッキリさせる為、顔を洗いに立ち上がる。



林田君の家にも慣れ、この広い部屋の場所もだいたい把握している。



顔を洗ってスッキリしたかったはずなのに、体が気持ち悪くてシャワーを浴びる。



「後で、断っとこう」



勝手に使うのも悪いから、後になるけれど。



軽くシャワーを浴びて、部屋へ向かう。



話し声がして、足を止める。



「あぁ、それで頼む。後任は任せる、悪いな」



電話をしているようで、部屋に入りづらい。



終わった頃、やっとゆっくり部屋の扉を開いた。



「起きたか」



「うん。また、迷惑かけちゃったね。あの、お風呂、借りた」



「ああ、構わない」



少しだけ顔が動いた気がしたけど、それも一瞬で。



用意されたご飯。三人で食べるご飯。これも最後だと思うと、ちょっとしんみりしてしまう。



泣かないように、必死に耐える。



ご飯も終わった頃、片付けを無理を言って手伝っていた。



「すみません、お手伝いいただいてしまって」



「いえ、お世話になりっぱなしは嫌なので」



最後だから。とは、言えない。



片付けも終わって、眠っていたから眠れないから、縁側で空を見る。



退学の届けを出して、バイト探して、街も出なきゃ。



探してもらえるとは思ってないけど、念の為にできるだけ遠くへ。



私が、会いたくなるから、遠くへ行かなくちゃ。



そんな事を考えていると、肩に何かが掛かる。



「風邪を引くぞ」



「……ありがとう」



上着を肩にかけられ、温かさと彼の匂いに包まれる。



鼻がツンとする。



泣いちゃ駄目。



隣で何も言わずに寄り添ってくる彼が、ほんとに好きだ。



好きだから、早く離れなきゃ。



だから、最後にするから。



「林田君、あの……」



「処理をしたくないって、言ったな?」



「え?」



突然話しかけられ、ちょっとびっくりする。



「もう、しなくていい」



その言葉は嬉しいはずなのに、まるでお前はもういらないと言われたようで。



自分から名乗り出て、なのに自分から拒否して、勝手に傷ついて。



「幸い、今回の合宿で何人かマネージャーを名乗り出てくれた生徒がいてな。だから、お前が一人で苦しむ必要は、もうない」



最後に、すまなかったと呟いて、私に頭を下げる。



どこまでも真っ直ぐ誠実で、優しく男らしい人。



無敵だな。



「ありがとう……林田君はほんとに優しいね。私には……眩しい……」



私には、やっぱり、もったいない。



「どうした? 今日は少し変だな」



林田君の見透かすような目から逃れるように、立ち上がる。



「あの……一緒に、寝ても……いいかな?」



最後。最後だから。



当たり前みたいに了承した林田君は、私の前を歩く。それにゆっくりついていく。



部屋にはもちろん布団は一つ。



用意してくれると言った林田君の提案を断り、同じ布団に二人で入る。



安心していられて、落ち着く体温。なのに心臓が破裂しそうなくらいには、ドキドキする。



矛盾した私の頬に、優しく滑るゴツゴツした指。



絡まる足に、興奮の色を目の中に揺らして雄の顔をする。



自然と重なる唇。



いやらしく舌が絡まって、上がる息。



キスをされながら、まさぐられる体。彼の大きくなったモノが当たっている。



愛撫もほとんどされてないのに、もう欲しくて堪らなくなって、彼のモノに下半身を擦り付ける。



「もう欲しいのか? まだほとんど触ってないぞ」



「もぉ……いい、から、ぁ……ほしっ……」



擦り付けた下半身が熱くて、腰を動かしてねだる。



私には勢いよく覆い被さる林田君が、深くキスをしてソレを取り出した。



見下ろして、荒く息を吐いた顔が獲物を狙う獣のようで、体がゾクリとして、それだけで達しそうになるくらい妖艶だった。



こんな顔、誰にも見せたくない。なんて、意味のない欲が出る。



大きく硬いソレが入って来て、体をビクビクさせながら仰け反る。



「入る瞬間っ、好きだな、お前っ……中がギュッと締まるっ……」



「はぁ……んっ、好きっ、きもちっ……い、からぁっ……」



苦しそうに眉を歪めて、必死に腰を動かす林田君に、腕を伸ばしてしがみつく。



キスを何度もせがんでは、最奥を何度も突かれて達する。



自らも腰を動かして、もっともっとと擦り寄っていく。



「今日はっ……はぁ……積極的っ、だなっ……くっ……」



「気持ちぃっ……いいっ……んっ、もっと……もっとっ……してぇ……」



最後に、するから。



もう、わがままは、これで終わり。



寝付けなかった私は、腕枕をして隣で眠っている彼に、触れるだけのキスをして明るくなる前に家を後にした。

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