第23話

合宿最後の日。



相変わらずハードなメニューに崩れそうになりながらも、みんな懸命に取り組んでいた。



私達女子も、フォローする事にだいぶ慣れて来ていた。



「それこっち持ってきてー」



「これってこっちでいい?」



女子達の連携もなかなかまとまってきた。



これがこの合宿だけというのが、少しだけ残念だ。



だけど、小牧さんの姿はなかった。



体調不良で帰ったのだと聞いたけれど、多分嘘だと分かっているのは、私と林田君と、もしかしたら、奥島君も。



夕方前に帰る支度を整え、バスに乗り込む。



みんな疲れて眠っている。



私は、隣でウトウトし始めた涼子ちゃんを横目に、自分までウトウトしてくる。



そんな私の耳に届いた小さな声。



「ん……駄目だってばっ……」



「いいじゃん、どうせみんな寝てるって」



「そうそう。こういうシチュエーションも燃えるじゃん」



後ろの方の席で、そんなヒソヒソ話が繰り広げられている。



そういう雰囲気は伝染するのだろうか、色んな場所で色んな事が起き始めてる。



私は知らないフリをして、目を閉じる。



耳を塞いで、音も遮断する。



そうやって、現実逃避。



最近、林田君以外の人とそういう事をするのを、心が拒否している。



奴隷としては最低だ。あってはならない。



この心は、殺さなきゃ。



物凄く長く感じた時間にも、いつか終わりが来るもので、やっとバスが学校へ到着する。



眠れなかった。疲れた。早く部屋へ帰りたい。



顧問の話がそこそこに、解散の声と共に私は素早く立ち去る。



早く、一人になりたい。



一人になって、落ち着かなきゃ。



焦る気持ちで足が縺れる。



「唯栞」



名前を呼んで、手首を掴まれた。



林田君、だ。



「どうした?」



「え……」



「様子が変だぞ」



なんで、気づくの。何であなたが、気づくの。



「何でも、ないよ……」



駄目だ。上手く笑えない。



突然、抱きしめられる。背中を優しく撫でる大きな手。



凄く慰められてる。あやされてるのか。



まるで子供にするみたいに。



「誠様」



「とりあえず、こいつも連れて帰る」



背後から立花さんの声がして、林田君が答えた瞬間、私を簡単に抱き上げた。



抱っこされた子供のような気分。これがよくある事だから困る。



もっと困るのは、それが嫌じゃないところ。



抱っこされて、甘やかされて、大事にされて。



もう、限界。



もう、隠せない。



車に乗り込んでも、私を膝に乗せたまま、髪を撫でてくれる優しい人。



爆発した好きが溢れて、零れ落ちる。



「……き……」



「ん? どうした? 辛いか?」



「好き……」



呟いた言葉は、思っていたより細くて弱い声は、彼に届いたのかは分からない。



「ひっ……もっ……ほ、かっ、の人とっ……したくなぃ……やめ、たぃ……」



自分から言い出したのに、私はほんとに弱い。こんなに弱いと思わなかった。



奴隷、失格だ。



奴隷って、辞めれるのかな。



学校、辞めなきゃか。



学校辞めたら、林田君とも一緒にいられないな。ちょっと嫌だな。



色んな事をグルグル考えている私の耳に、小さく林田君の声で「そうか」と言った。



少しだけ、林田君の手に力が入った。

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