第22話
合宿が始まって三日目。
林田君の言う通り、メニューは段々ハードになり、終わる頃にはみんなヘトヘトで、処理をする事はなく一日が過ぎる。
私はお風呂から上がって、縁側で空を見上げる。
ちょっとした休息。
といっても、私達フォローする側は、そこまでハードではないけれど、一人でこうしてボーっとする時間はなかなか貴重だ。
静かにゆっくり流れる時間。
こんなにのんびりする事が最近あまりなかったから、何だか逆に落ち着かない。
変に目が冴えてしまって、どうにも眠れそうにない。
寒いけれど、ここから動く気になれない。
バスタオルで体を包んで、縁側で体を丸めて寝転がった。
「お前は何処ででも寝るんだな。部屋があるのに、何でこんな所で寝る」
「林田君……」
顔を上げようとした私の体がふわりと浮いた。
「俺の部屋でいいか?」
温かい腕に抱かれて、冷えた体が少しマシになる。
やっぱりこの腕が落ち着くし、好き。
林田君の質問にゆっくり頷いた。
自分で歩けると言う私の言葉を簡単に却下され、私を運ぶ林田君は黙っている。
林田君の部屋で、敷かれた布団に下ろされる。
「風邪を引く前に、ああやって何処ででも寝るのはやめろ。こちらの気が休まらない」
昔から結構何処ででも眠れた。体を丸めていれば、全てのものから自分を守れる気がした。
「林田君は、疲れてないの?」
「俺は普段から、他の部員よりメニューが多いからな。この位では疲れないな」
さすがというか、凄いとしか言えない。
この人は一体どうなってるのか。もうある意味超人なんじゃないんだろうか。
「鍛え方が違うってやつだね」
「そうだな。だから、お前にも付き合ってやれるわけだ」
そう言って、私の上に覆い被さる。
「……するの?」
「お前は、どうしたい?」
そんな聞き方されても、私に与えられた選択肢の答えは一つだけなのに。
何度も抱かれたこの腕が、私を優しく撫でる。
快楽だけじゃなく、安心感すら与える優しい手。
この手が、この人が欲しい。
でも、それは不可能だから。
私だけのものには、決してならない。
いつだって私の欲しい物は、この手からすり抜けていく。
そう。いつだって。
手には、入らない。
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