第21話

部屋へ帰るのを止められ、林田君の部屋にいた。



林田君の顔を見た時、今部屋では多分、色んな事が巻き起こっているであろう事が予想出来た。



「あ、あの……小牧、さんは?」



「ん? 小牧? 小牧は……さっき別れてからは、分からない」



何かあった。そう思った。



でも、それは、私が聞くべきものじゃない。聞けるわけない。



「何でそんな事を聞く?」



「え? あ、いや……別に」



歯切れが悪い言い方になったけれど、それ以上何も聞かれなかったので、話題を変える。



「れ、練習って、地獄だって聞いたけど、今より酷いの?」



「そうだな。後半には何も出来なくなるくらいには、ハードだな」



だから前半の余裕あるうちに、処理をするのかと、変に納得してしまった。



しかし、会話が続かない。



沈黙。なのに、ずっと後ろから包まれるみたいに座らされて、頭を撫でられてた。これはどういうやつなんだ。



マスコット的な? 落ち着くぬいぐるみ的な?



もし落ち着くって思ってもらえるなら、人形だっていいとか思ってしまう辺り、やっぱり林田君に関しては馬鹿になる。



林田君の心臓の音。私が落ち着いてしまう。



「どうした? ふっ、えらく甘えただな。眠いなら寝ろ」



優しい声に優しい笑顔。そんな顔しないで。好きが溢れて爆発する。



「林田君て……ズルいよね……」



「何がだ?」



「ほんと、ズルいし、鈍感だし、硬いし、無愛想だし……でも、強くて、格好よくて、優しくて……」



「貶したいのか、褒めたいのかどっちなんだ」



好き。



って、言いそうになって、林田君にキスをした。



一瞬困ったような顔をするけれど、すぐに受け入れてくれる。



最近こういう顔をする事が多い。



私がすると困るんだ。



いっぱい困ればいい。なんて、意地悪な気分になる。



「体、大丈夫なのか? このまま寝るか?」



「やっぱり、ズルい……」



「それがお前の主だ、悪いがな」



あぁ、この顔、好きだなぁ。



意地悪で、でも優しくて、ギラギラした雄をチラリと見せる、体を熱くさせる顔。



多分、私にしか見せない顔だから。



今のところは、だけど。



小牧さんにも、こんな顔、するのかな。



「どうした? 気分じゃないか?」



「あ、ううん、何でも……」



「何でもって顔じゃないだろ。スッキリしないと気持ち悪いから、言ってみろ」



言えと言われても、どう言えばいいのか。



困った。この人は多分私が言うまで、ずっと待ってるんだろうな。



押し倒された状況でする話なのかと思いながら、林田君を目だけで見上げて口を開く。



「小牧、さんと……何かあった?」



「小牧と? 何かというほどではないが、好きだと言われたな」



この人にとって、告白は何かというほどじゃないのか。



「それ、だけ?」



「……いや、抱いて欲しいと言われた」



やっぱり。その為に来たんだろうとは思っていた。そのまま恋人にでもなれれば、もっといい。



私が彼女でも、そう思ってしまう。



「何だ? 気になるのか? 俺が小牧を抱いたかどうか……」



「あっ……んっ……ゃっ……」



胸の突起を甘噛みされ、声が出る。



気にならないわけがない。



小牧さんは可愛いし、誰だって私より彼女の方がいいに決まってるから。



「抱いてない。告白も断った。だから、そんな泣きそうな顔するな……」



どうしよう。駄目だ。そんな嬉しい言葉を甘く囁いたら、嫌でも期待する。



私の方が特別なんだって。



私は安堵で涙が出るのを堪えながら、林田君にしがみついて顔を隠した。



「ふっ、おかしな奴だな」



喜んじゃ駄目。期待しちゃ駄目なのに。こんなにも嬉しくて、期待する。でも、主と奴隷の関係が、また私を現実に引き戻す。



悪循環。



なのに私は、彼の腕から離れられないでいる。



体だけでも欲しいと、思ってしまう。

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