第五章

第20話

練習が終わったのは暗くなった、夜七時五分前。



片付けをする女子や、部員にタオルなどを渡す女子。



私と残りの女子達は料理担当。



メニューは決まっていて、レシピも細かく書いてあるから、苦手な人でも作れるようになっている。



「わぁ、唯栞ちゃんて料理上手なんだね〜」



「上手ってほどじゃないよ。好きなだけだよ」



最初な仲良くなった女子、萩原涼子はぎわらりょうこちゃんが、目を輝かせている。



「私不器用だから、料理ってほんとに駄目でさぁ〜」



「そうかな? 手際は悪くないと思うよ。仕事してても、周りがよく見えてるなぁって思ってた」



ほんとに、私なんかより、ほっぽど役に立ってる。



こういう子はモテるんだろうな。



「やだなぁ〜、照れんじゃん」



そうやって笑った無邪気な顔が、凄く可愛い。



こんな可愛く笑ってみたいものだ。



ほんとに、羨ましい。



ご飯を食べてる間も、私は林田君の隣で楽しそうに笑う可愛らしい女の子が、気になって仕方なかった。



昼間、洗濯機の部屋で言われた事を思い出しながら。



特別になったつもり、か。ほんと、彼女にもなれないくせに、思い上がり過ぎだ。



私は彼にとって、奴隷以上になれるはずは、ないのに。優しくされて、期待して。



ほんと、愚かだ。



『あんたみたいに、誰とでも寝るような女を、林田君が本気で好きになるわけないでしょ。林田君が優しいからって、変な誤解して私と林田君の仲を邪魔しないでよね』



普通に林田君と恋をする事が出来る人。



羨ましいくらい、まっすぐに気持ちを伝えられる存在。



私には、出来ない。



分かってるのに、二人を見ていられなくて席を立つ。



「唯栞? もう食べないの? てか、全然食べてないじゃん」



声をかけてきた奥島君が、私の耳元に口を近づけた。



「あんな姿見せつけられちゃ、ご飯なんて喉も通らないよね。多分あれ、確信犯だよね。あの子、意外に性格悪いんだね。まぁ、俺的には唯栞に付け入る隙が出来て、ありがたいけど」



ちゅっと音を立てて耳にキスをされ、お盆を落としそうになる。



「練習の後って興奮してるからさ、ヤりたくなるんだよね……相手、してくれるよね?」



頬を撫でられ、額にキスをする。



まるで、見せつけるように、煽るように、林田君を見て意地の悪い顔で笑う。



この人もだいぶ性格が悪い気がする。



「私には、拒否権なんてないの、分かってるくせに、そうやって聞くのってほんと最悪」



「おー、今日はちょっと悪い唯栞ちゃんが出た。それも可愛いけどね」



私は林田君の方を見ずに、奥島君の後をついて食堂を出た。



二人の事を見る事が出来なかった。



連れてこられた個室で、私はいつものように、体を差し出す。



「ほらっ、しっかりしなよっ……んっ、まだまだ終わらないよっ……はぁ……」



「おく、しっ……あぁっ……」



「だから、名前っ……」



奥島君は下の名前を呼ばないと、少し乱暴になる。傷付けるとかではなく、少しだけ激しくなるのだ。



何度も奥に出され、意識を失った私が目を覚ました場所は、何故か林田君の部屋だった。



林田君が私を見下ろすように隣で座り、髪を撫でていた。



「あ、な、んで……」



「奥島が、無理をさせたと……」



少し眉間に皺を寄せて、苦しそうな顔で笑ったような気がしたのは、気のせいだったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る