第17話

ここ最近、おかしい。



「またか……」



今日は靴箱に置いてあった上靴が切り裂かれていた。そして、ご丁寧に『ビッチ』と書いてあった。



「これじゃ、履けないな……」



正直、被害は今に始まった事じゃなかった。



数日前から物がなくなったり、荒らされたり、汚されたり、ボロボロにされるようになった。



「これで何回目だろ。数えるのも疲れてきた」



うんざりしていた。もちろん腹も立つ。



こんな事をされる理由も、心当たりもない。



自分で言うのも何だけど、人当たりは悪いわけじゃないし、元々敵が多いわけでもない。



最近始まったから、多分奴隷制度が関係しているのだろうか。



性欲処理の事もあるからか、知らない間に、どこかで誰かを傷つけてるとしたら。



「う〜ん……どうしよう……」



とりあえずは分からないものを考えたところで仕方ない。来客用のスリッパが置いてあったのでそれを借りる。



気に入っていたペンもなくなって、少し落ち込んだりもしたけれど、そうしたって帰って来るわけでもないし。



それでもため息くらいは出るわけで。



「おはよう唯栞。おやおや、そんな重いため息吐いちゃって、どーしたの?」



「奥島君、おはよう」



取り繕う笑顔すら出ずに、驚くくらい無表情になる。



「おっ、ちょっと素が出た? それもいいね。可愛い」



頬にキス。朝の廊下だというのに、この人はこうも簡単に手を出してくる。



視線が刺さる。



「奥島ー、お前朝っぱらから盛ってんなよ」



「お前それ林田の奴隷だろ? 手ぇ出していいのかよー」



「殺されんぞー」



通りすがった男子生徒数人にそう言われても、悪びれた様子もなく笑っている。



「そのうち奪うし〜、いいの〜」



私の肩に腕を回して引き寄せる。



いつもの事だし、私は気にしないけれど、最近奥島君を好きな子とか、狙ってる子も多いのを知ったから、人前でこういうのは少し困る。



「あの、悪いんだけど、あまり人前で……こういう、のは、控えて欲しい……かも……」



あまり突き放すような事を言いたくはなかったけれど、やっぱり好きな人が他の子とベタベタしているのを、見ていい気分にはならないから。



「そういう事言うの、珍しいじゃん。それって、林田のせい? どうやって懐柔されたの?」



また、奥島君の雰囲気が変わった。爽やかで人懐っこい彼は、いない。



「マジで、奴隷制度とかいらねぇわ」



腕を引かれ、歩き出す。転びそうになりながら、必死でついて行く。



「ねぇっ、どこ行くのっ……」



質問には答えてくれず、引かれる腕は痛くて、怒っているのが分かる。



それでも、私にはどうして怒っているのかなんて、聞けるわけがなかった。



そこまで鈍感になったつもりはないから。



部室まで連れてこられ、鍵が閉められると体が準備を始める。



もう、癖になっている。



何をされるか、体がしっかり覚えているから。



奥の部屋へ入ると、乱暴に押し倒される。



「林田の所有物って言われてるみたいで、むっちゃ腹立つわ。今日は優しく出来ないから、覚悟して」



下着を下ろされ、自ら舐めた指で下の突起を撫で上げる。



「何? 乱暴に犯されるって思ったら興奮したの? もうここ濡れてきてんじゃん。わざわざ濡らさなくても入るんじゃね? ほんとエロい女」



「ちがっ……」



「違わないでしょ? ほ〜らっ、んっ……っ、はぁ……一気に入れてもっ、すんなり入ったけど?」



ただ指で撫でられただけで、愛撫らしい愛撫すらされていないのに、奥島君を簡単に受け入れるはしたない体。



「ぅ、ンっ……キツっ、はぁ……やっぱ、唯栞ん中……めっちゃ気持ちい……ぁあ……」



「あっ、あぁあっ、んあぁっ……」



最初から激しく腰を打ち付けられ、揺さぶられて、頭が朦朧としてくる。



「すっげっ……はぁっ……めちゃくちゃに突きまくられてんのにっ、気持ちよさそうな顔でっ、あぁっ……エロい声出して喘いでっ……んっ、はぁっ、っ……ああっ……はっ……めっちゃ、吸い付いてくんねっ……ここゴリゴリすんの、気持ちいの?」



「ああっ、あっ、んっ、やぁっ、ふぁっ、ああぁっ……」



答える事すら出来ずにただ喘ぐ。



「林田じゃ、なくてっ、んっ、俺を好きになってっ……あいつより、ずっと、大事にするからっ……っ、好きだっ、唯栞っ……」



泣きそうな顔でそう言った奥島君を、私は直視出来ずに目を逸らして気づかないフリをする。



卑怯だけど、私にはどうにも出来ない。



林田君が好きで、諦めきれなくて、振り向いてくれなくても構わない。



報われなくても好きでいたい。



中に欲を放たれる感覚を感じながら、体を仰け反らせて達した。



奥島君が離れると、私の中からドロリと欲が溢れ出す。



私を見下ろして、眉を潜めた奥島君は何も言わずに部屋を後にした。



これでいい。これで、いいんだ。



奥島君の好意に甘えてちゃ、いけない。



重い体を起こして、シャワー室へ向かう。



何もかもを簡単に洗い流せたらいいのに。



そんな事をぼんやり考えながら、シャワーを終えて身支度を整える。



授業中だった為、途中から入るのも何だし、少し気だるいから近くの木陰に腰掛ける。



「静かだな……眠い……ちょっと、だけ……」



横になって体を丸くする。昔からこの体勢が落ち着く。



最近こういう時間が増えて、ダラダラし過ぎだなと思う。



「もう……何でも……いぃ……ゃ……」



眠気が来て、ゆっくり目を閉じる。微睡みの中、草を踏む音がした。



眠くて、目が開かない。



でも、誰なのか分かってしまう。



「またお前はこんな所で……」



大好きな匂いに、自然と笑みが零れる。



「幸せそうな顔して……どんな夢を見てるんだ、お前は……」



髪に触れる優しい指先。そのまま撫でて髪を梳く。



心地よくて、もっとして欲しくて手に擦り寄る。



「ふっ……ほんとに猫だな……」



笑った。優しく微笑む顔が思い浮かんで、心がザワつく。



「唯栞……」



優しく名前を呼ばれたような気がした。

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