第四章
第16話
〔林田誠side〕
同じクラスの女子に話しかけられ、入口付近の廊下で話しをしていた。
怖がられる事が多い俺に、よく話しかけてくる女子だ。
ふと気になって、彼女から目を離し、廊下に目をやる。
後ろから深神の目を手で覆いながら、体をまさぐっている奥島がこちらを見ていた。
挑発するような目。
奥島が深神を欲しがっているのは分かっているつもりだった。
最初に紹介をした時も、気に入っていたのを知っていたから。
今までなら特に何かするわけでも、気にする事でもなかった。
そのはずだったのに、無意識だった。
自分の中に湧き上がった黒い感情。
まただ。最近知ったこの感情は、多分嫉妬だ。
主という立場を利用して、深神に俺を選ばせる。
主と奴隷。俺には都合がいい言葉だ。
この立場は、俺が唯一深神を好きにできるものだ。
奴隷として、縛り付けるのは不本意だが、必要なら行使するまでだ。
深神を、渡したくないと思ってしまう。
深神は普段から特に抵抗をしない。奴隷として諦めているのか、ただ受け入れているからなのか。
それすらも利用する俺は、最低だ。
なのに、動かずにはいられなかった。
物欲しそうに俺を求める深神に、雄の部分を引き出され、堪らなくなる。
もっと俺を、俺だけを求めればいい。
「今日は深神様が手伝ってくださいました」
見当たらないと思ったら、立花と料理をしていたようで、目の前にいつもより少し品数が増えた料理が並ぶ。
期待した目で見つめられ、少し食べ辛い。深神が作ったものを口にする。
「うん、美味いな」
「ほんとっ!? よかった……」
目をキラキラさせながら、少し頬を赤くしてはにかむ姿が可愛くて、触りたくなる。
深神を見ていると、自分が自分じゃないようで。
こんな事、初めてだ。
三人で食卓を囲み、妙に和んだ後、風呂へ向かった深神が戻ってくる。
元々色気はある方だが、風呂上がりの深神の妖艶さは、目を見張るものがある。
駄目だ、触りたい。
「深神、来い」
一瞬で頬が真っ赤になる。
可愛いより綺麗な印象があるのに、たまに見せるこういう所は、可愛く思う。
控え目な足取りでこちらに歩み寄って、俺の前に座る。
「違う。ここだ」
膝を叩き、俺の膝に座るように促す。
おずおずと膝に座る。スタイルがいい割に、軽くて驚く。
緊張したような顔で座り、体を硬くする。
力を入れたら折れてしまいそうな、しなやかな女らしい体に、ゆっくりとできるだけ優しく触れる。
こんな気持ちになるとは思ってもみなかったから、性欲処理の役目を与えたのは自分なのに、後悔し始めている。
「どうするべきか……」
疲れきって眠っている深神の髪に触れ、頬を撫でると身動ぎして擦り寄って来る。
温かい何かが胸に広がる。
数日前に洗濯物を畳んでいる途中で眠くなったのか、俺の上着を抱きしめ、洗濯物に囲まれていつもの様に丸くなって横になる姿を見て、それだけで胸が熱くなったのを覚えている。
どうも深神は俺の匂いが気に入っているらしく、少し恥ずかしくなった。
「林田君の匂いって、何か安心する……から……」
恥ずかしそうに、でも何処か嬉しそうにそう呟いた深神が、堪らなく可愛くてどうしたらいいか分からなくなる。
こんな感情を、俺は感じた事がないから。
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