第15話
和風の大きな建物。庭が広くて静かだ。
誰もいないのか、人気がない。
そう思ったけれど、黒服の男の人が一人玄関先で待っていた。
「おかえりなさいませ、誠様」
「ああ。今日はもう下がっていい」
「かしこまりました」
林田君に一礼した後、私にも頭を下げて去って行った。
また静寂が戻り、長い廊下を歩く二人の足音だけが響く。
林田君は何も話さない。私も口を開けなくて、何が起こるのか分からない先の不安でいっぱいだった。
沢山ある部屋の奥の一部屋で立ち止まって扉が開く。
布団が一人分だけ敷いてあって、ドクリと血が沸き立つようで。
布団へ乱暴に体を倒され、林田君はそこから少し離れた場所に座る。
抱かれると思っていた私は、呆気に取られてしまう。
「あ、あの……」
「一人でして見せろ」
林田君の口から驚く言葉が出る。まさか、彼からそんな命令が飛び出すなんて、予想外で固まってしまった。
「早くしろ。俺によく見えるように足を開け」
恥ずかしくて死にそう。
林田君の冷たくて、なのに熱いものが揺れる目に射抜かれて、私の体は淫らに濡れる。
制服の上着を脱ぎ、足を開いて、下着の上から濡れたソコに指を這わせる。
もう片方でブラの上から胸揉みながら、先端を刺激する。
もちろん林田君に見られながら、自分で触るのも気持ちよくないわけじゃない。なのに、やっぱり刺激が足りなくて。
「んっ……ぁ……」
「足を閉じるな。そんな触り方じゃ、はしたないお前は気持ちよくならないだろ」
「はや……だっ、くっ……んっ……ぁ、ふっ、足りなっ……」
「手伝ってやろうか?」
「あぁ、触ってぇ……」
触れて欲しい。この人の手で気持ちよくなりたい。
縋るように、ねだるように、林田君に目を向ける。
「ゃ、あぁっ……ちがっ……ぅ……」
「俺は触らない。手伝うだけだ」
私の手を掴んで、私の手を動かし始める林田君の声はまだ冷たくて、もどかしくて涙が滲む。
「ごめっ、なさっ……ごめん、なさぃっ……」
「……っ、クソっ……」
「ンンんっ! ぅんんっ、んっ、はっ、ぅ……」
布団に倒され、荒々しく唇を奪われる。林田君からこんなに乱暴なキスをされたのは初めてで、なのに凄く満たされる。
酷くされてもいい。触ってもらえない事の方が辛いから。
林田君の首に腕を巻き付け、抱きしめてキスを返す。
抱きついたまま抱き起こされ、キスもやめないまま、下着が少しズラされて、もう昂っているソレが侵入してくる。
慣らされなくても受け入れる私のソコが、いやらしく音を立てる。
「少しイジっただけでっ、はぁ……俺のを簡単に飲み込むなん、てっ、本当に淫乱な奴隷だなっ……んっ……」
「ぁっ……ごめっ、なさっ……あぁっ……」
抱き合う体勢で酷く突かれるけれど、それでも私の体は反応する。
乱暴にされてるのに、どこか優しい手つきに、また心臓が鳴る。
たまに感情が高ぶると、好きと口走ってしまいそうになる。
それだけは絶対駄目だ。
ただの奴隷でいなきゃ。
日が落ちるまで抱き潰され、意識が無くなり、目が覚めた頃に部屋には誰もいなかった。
でも、扉の外に誰かいる気配がする。
林田君にしては、小さい気がする。小さいと言っても、男の人としては大きい方だと思う。
襖を開けると、立っていた人がこちらを見た。
昨日いた人だ。ピシリとした黒いスーツを着ていて、姿勢が良くて、無表情。
「起きられましたか? お体の方は大丈夫ですか? 歩けますか?」
質問責めの全てに「はい」と一言返す。
「お初にお目にかかります、私立花と申します。誠様のお世話をさせて頂いております」
自己紹介が軽く済んで、ついてくるように言われ、私はスーツの人――立花さんについて行く。
少し歩いて行くと、何だかいい香りがしてきた。
「こちらで誠様がお待ちです」
「あ、ありがとう、ございます」
扉を開けると、部屋着を着た林田君がこちらを見る。
「起きたか。体は?」
「あ、えと、大丈夫、です」
そう返事を返した瞬間、私のお腹も返事をする。
顔に熱が集まる。
「ふっ、今飯の用意をさせる」
「え、でもっ……」
「気にするな。今日はお前を帰すつもりは元からない」
少し笑いながら言った言葉に、体を固くする。
明日は休みとはいえ、林田君の家にずっといるというのは、何とも言えない気持ちになる。
食事が運ばれ、向き合って座る。
そういえば、林田君と立花さん以外の人が見当たらない。
これは聞いていいのだろうか。でも、複雑だったらどうしよう。
「ん? どうした? 口に合わないか?」
「え? あ、いえ、美味しいです」
凄く聞きづらい。
食器の音と、自分の咀嚼する音と、時計の音しか聞こえない。
凄く、静かだ。
という事は、彼はずっとこんな寂しい場所で、一人なのだろうか。
「そういえば、ずっと気になっていたんだが、お前は何故俺に敬語を使う? 同じ歳だろう」
何故と聞かれると困る。だって、意味はないから。
「なんと、なく?」
「これからは普通に話せ。その方がいい」
それだけ言って、また無言になる。
「分かり……分かった……」
「ん、それでいい」
言われ、ふわっと笑って頭を撫でられた。
心臓がドキリと跳ねる。
この笑顔は反則だ。駄目だ。話しをしなきゃ。
「あ、あの、ここって、林田君だけしかいないの?」
「ん? あぁ、そうだな。立花と俺しかいないな。気になるか?」
言われて頷く。
だってこんな大きな家に二人だけだから、気にはなる。
「親は二人共外国にいて、俺はどうも外国が合わなくてな。立花が保護者みたいな役割で一緒にいる」
確かに、林田君が外国の人と一緒に英語を話してるイメージはなかったなら、すんなり納得してしまった。
「立花さんは、ご飯ご一緒しなくていいのかな?」
「立花と食べる事はないな」
「毎日、一人で食べてるの?」
「そうだな。特に家に客を入れる事もないしな」
寂しい。一人ご飯とか、耐えられない。
話しをしなくても、ただこうして誰かと食べるだけでも全然違うから。
「あ、あのっ、また、ご飯一緒に食べよっ!」
「っ!? あ、あぁ、別に構わないが……どうした、急に……」
早急だったのか、驚きに目を開く林田君に、しまったと思ったけれど、意外と了承が簡単に出てしまい、こちらも呆気に取られてしまった。
「た、立花さんも、よかったら、一緒に。ほら、ご飯は、みんなで食べた方が美味しいし」
必死で言葉を紡ぐ私に、林田君はふっと微笑んで「そうだな」と呟いた。
この笑顔を何度も見たい。ずっと、傍で見ていられたら、いいのにと願う。
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