第14話

林田君の隣に立つ小柄で可愛い女の子。



廊下を歩いていたら目に飛び込んで来て、足が止まる。



心臓が止まりそうになる。



林田君が、少し笑ってる。優しい顔。



嫌だ。やめて。見たくない。



他の子に、笑いかけないで。優しく、しないで。



足が、動かない。



「そんな顔、好きだって言ってるようなもんじゃん。唯栞は馬鹿だね、ほんと」



目が手で覆われ、目の前が暗くなる。



奥島君だ。彼はいつもいいのか悪いのか分からないタイミングで現れる。



変な所ばっかり、見られる。



「他の男の為に泣くな。ムカつく」



「奥っ……んんっ……」



顔だけ後ろを向けさせられ、唇を塞がれる。



こんな場所で、キスなんて、彼にも見えてしまうのに。



「ご主人様が気づいたよ? ほら、他の男で可愛く感じてるその顔……見せてやりなよ」



「ゃっ……め、ぁっ……」



ここは廊下で、他にも生徒がいるのに、まるで私達三人だけの空間のようで。



後ろから首筋を舐めあげられ、足を撫でられる。



目は、林田君と絡まる。最初の驚いた目から、すぐに強い視線に変わる。



見ないで欲しいのに、見て欲しい。



矛盾。



「この首輪、マジで邪魔……早く奴隷期間なんか終わればいいのに……」



「奥島君っ……ここ、廊下だからっ、もっ、やめてっ……」



抵抗するのに、奥島君がそんなに力を入れているわけじゃないはずなのに、振りほどけなくて。



耳を刺激されて身を捩りながら、やっとの事で林田君から目を逸らす。



「林田に見られて感じてんの? それとも俺に触られて?」



「こんなとこっ、でっ、やめてっ……」



周りを意識し始めたら、周りの視線が痛い。



逃げなきゃ。なのに、力が入らなくて。



「奥島、場所を考えろ」



「ん? 何? 奴隷ちゃん取られてヤキモチ妬いてんの?」



「いい加減にしろ」



「お〜、怖っ。ご主人様がご立腹〜。じゃ、場所変えるわ」



私の腰に手を回して抱き寄せる。私も特に抵抗はしない。



ここから離れたかった。



林田君から、離れたい。



「深神……」



林田君の手が私の腕を掴んだけれど、私はそれを振り払う。



「奥島君っ、早く……連れてって……」



「はいはい。て事で、奴隷ちゃんは俺がもらってくね。林田はその子の相手してやれよ。待ってんでしょ? その子」



奥島君が言って、そちらを盗み見ると、小柄な女の子はこちらを不安そうに見ていた。



私とは違う、可愛らしい子。



みんな、こういう子を好きになるんだろうな。守ってあげたくなるような、可愛い子。



奥島君の服を掴み、しがみつくみたいにして顔を埋めた。



これ以上、見たくない。ここにいたくない。



なのに、林田君の手が私の腕を掴む。次は、振り解けない程の強い力で。



「自分の立場が分かってないようだな。お前は、誰の奴隷だ? 言ってみろ」



低く唸るような怒気を孕んだ声。こんな怒りの声を聞くのは初めてで、恐怖に体が震える。



顔が見れなくて、必死に口を開く。



「林田、君、のっ……」



奥島君から離れ、林田君に歩み寄る。



俯いたままの私の顎を掴んで、上を向かせると、林田君の鋭くなった目に捕えられる。



怖いのに、それとは違う意味でゾクリと体が痺れた。



「ちゃんと、目を見て言え」



「……林田君っ、あなたの、奴隷っ……です」



凄く怖いのに、恥ずかしいのに、どうして私の体はこんなにも熱くて、こんなにも感じているんだろう。



「なら、お前が誰相手に、どちらの男に縋るのか、分かるな?」



手を離され、ただ見下ろされる。私は林田君にしがみつく。



「こういう時に奴隷制度持ち出すとか、ほんと林田ってズルいよな。お前のそういうとこ、マジでムカつくんだよ」



林田君に顔を近づけた奥島君が、いつもとは違う怒りを表した声と表情でそう言った。



すぐにそれは消えて、笑顔で私を見る。



「唯栞、また放課後、ね?」



頭をポンとされて、奥島君はいなくなった。



林田君は私の腕を掴んだまま、歩き出す。そんな姿を先程の女の子が見ていたけれど、私はただ引きずられるように、林田君について行くしか出来なかった。



掴まれる腕が痛み、顔が歪む。



そのまま荷物を取りに行かされ、何故か学校から連れ出されてしまった。

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