第三章
第12話
体育の時間。マラソンという意味があるのかないのか、全く分からないものをしていた。
まぁ、今の私には体力つくなら何でもいいんだけど。
そんな時に限って、今日は少し朝から調子が悪い。頭痛と少しの目眩。
でも、私は走ってます。
もちろん、休憩を挟みつつではあるけれど、何とか頑張ってはみているけれど、ちょっと駄目そうだ。
先生に一言言って、保健室へ向かう。
駄目だ、目眩が酷くなってきた。
廊下を歩きながら、必死で壁にしがみついて座り込む。
気分が悪い。グルグル回る。もう少し、なのに。
保健室はもうすぐそこなのに、動けない。
本気でヤバくなってきた。倒れる。
地面が近づいてくる感覚の間に、誰かに呼ばれたような気がした。
意識がなくなって、目が覚めたのは保健室だった。
倒れた後であろう時、ふわふわした感覚があったのを思い出す。誰かに抱かれて運ばれているのが分かる感覚。
気持ちよかったのを覚えてる。
そしてあれは、あの匂いは。
「起きたか? 体調は? まだ、辛いか?」
「……はや、しだ君……」
やっぱり、彼の香り。
でも、何で。
「俺の教室の前をお前が通ったんだ。それをたまたま見つけて」
私が座り込んだ時にわざわざ授業を抜け出してくれたらしく、倒れる私をここまで運んでくれたのだという。
「すみ、ません……」
「気にするな。無理をさせてしまったな。すまない。ゆっくり休め」
優しく微笑んで、頭を撫でられる。
手が温かくて気持ちいい。優しく撫でられて、嬉しくてニヤけてしまう顔を布団で隠す。
それでも頭を撫でる手は止まらなくて、心地よくて、眠気が襲う。
「あり……が、と……」
眠気と戦いながら、言葉を絞り出す。
林田君の大きな手が優しくて、落ち着く。眠気を更に誘って、ゆっくり深く眠りに落ちていく。
夕日が落ちて、私が目を覚ましても、まだ林田君は傍にいた。
面倒見がいいにも程がある。結構な時間眠っていたのに。
「ずっと、いてくれたんですか?」
「いや、一度教室へ戻ったが、まぁ、ほとんどいたな」
本を閉じた手が、こちらに伸びて来た。
「熱は、ないな。気分は?」
「だ、大丈夫で、すっ……」
額を触られ、そのまま頬に降りてくる。
「顔色がだいぶ良くなったな」
片頬を包まれて、熱が顔に集まるのに、動けなくて。
夕日に照らされた保健室で、好きな人に頬を触れてもらって、優しく囁かれる。
幸せな時間。雰囲気に呑まれて、彼の手に手を添えて頬を擦り付ける。
ずっと、触れていて欲しい。
「甘えてるのか? ふっ、可愛いな」
林田君はたまに私を可愛いと言う。自分には可愛い所なんてないのに、どういう意味で言っているのだろう。
知りたい。私をどう思っているのか。でも、聞くのは怖い。
好きだとか、私だけを見て欲しいとか、そんな恐れ多いものは望まない。けれど、最悪の答えを聞く勇気もない。
それなのに何かを期待してしまう。
ほんとにワガママで、我ながら心底ヘタレだと思う。
「そんな物欲しそうな顔をするな。襲うぞ」
「はやっ……ん……」
ゆっくり唇が触れる。何度か触れて、啄むようなキスをされる。
どういう意味のキスなのか。
こんな優しいキスをされたら、期待してしまう。
それでも、この時間がずっと続いて欲しいと願ってしまう。
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