第7話

〔林田誠side〕



他人の為に、自らの体を差し出す女。



「私でも、いいですよね?」



そう言ったアイツの目が、忘れられない。



今まで性欲処理の時間に、立ち会う事も、それに混じる事もなかったし、興味すら湧かなかった。



経験がないわけじゃない。したいと思う事がほとんどない。



なかった、はずだった。



俺の服を握る手は震え、上目遣いに見上げる目は潤みがちで、深神が女を見せた姿にそそられて、血が沸き立つ。



誘われるがまま、深神を抱いた。



煽られて、惑わされて、何度も抱いた。こんな事は、初めてだった。



興奮、していた。



女は面倒で、俺みたいな男には向かなくて、性に合わない。



避けているわけじゃないが、自分から関わろうとはしない。



なのに、深神には触れてしまう。触れたいと思ってしまう。できるだけ優しく、壊れないように。



多少の好意はあるのかもしれない。ただ、これが恋だとか、そういう感情かどうかははっきりしない。



可愛い、抱きたいと思うくらいには、愛しく思う。



歴代のマネージャー達の時のように、部員達に囲まれて汚される姿を、見る事はせず、外で終わるのを待つ。



元々この時間に俺が中にいる事はない。だから、今も中に入る事なんてなかった。



『やっ、やぁっ、い、たっ……痛いっ、や、めて……いやぁ……』



体が勝手に動いた。無意識に動くなんて、初めてだった。



その後も、誘われて抱いて、入らないはずの部室で深神を見つめて、他の男に汚される姿に、夢中になった。



喘ぐ深神に欲情するのに、胸がモヤモヤして、疲れきった深神を抱く日もあった。



感情が制御出来ない。酷く抱いてしまいそうになる。



心を鍛え直す必要があるな。



そう思って自己嫌悪。ため息を吐くのも久しぶりだった。



そんな事を思いながら、木陰に誰かが寝転んでいる。



首輪をした女が、丸まって眠る。



「深神? まったく、こんな所で女が無防備に寝て。猫みたいに丸くなって寝るのは、癖か何かか……ふっ、可愛いな……」



自然と笑みが零れてハッとする。



何を言っているんだろうか、俺は。



ブルリと体を震わせて、少し動いた。



上着を脱いで掛けてやる。すると、俺の上着を少し握って抱きしめるようにして、少し笑った。



心臓がザワついた。



言葉では表せなくて、歯痒い。



隣で座り、寝顔を見つめる。



静かで、落ち着く。本を広げ、頭に入らない内容を目で追いながら、ページを捲る。



落ち着くのに、落ち着かない。



「修行が足りんな、俺も……」



また本に目を戻した。



しばらくして、驚きに見開かれた目がこちらを見る。



鯉のように口をパクパクさせている姿も、妙に可愛くて、笑ってしまう。



膝に頭を置かせて髪を梳く。



触る度にビクつくのは、怖いからなのか。



怖がらせるのは不本意だが、嫌がる様子がないのをいい事に、俺は深神に触れ続ける。



首輪に手が当たる。



主と奴隷。首輪がそれを改めて思い出させる。



奴隷という扱いをするのは、正直嫌悪しかない。



そこまで冷酷にはなれない。それでも、主と奴隷という立場だから、俺達はいまこういう関係でいる。



「いいのか悪いのか……」



呟いて、笑う。



難しい事はまたゆっくり考えるとして、今はただ、この時間に惑わされていたいと思う。

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