第24話

寮の部屋から奏夢の部屋へ越してきて数日が経ったある日、私は悩んでいた。



そう、もうすぐ奏夢の誕生日らしいのです。



せっかくだし、私の人生で初のサプライズとか、してみたい。



子供みたいに、ワクワクしてくる。



奏夢が何を好きとか、欲しいものとか何も分からない。



奏夢の事を知らなすぎる。



本人に聞くなんて、ボロが出るに決まってるし、嘘を吐くのが下手な私には多分出来ない。



なので、こういうのはやっぱり詳しい人に聞くのが一番。



「君が一番のプレゼントなんじゃないの? ほら、全裸で体中にリボン巻き付けて〝私がプレゼント〟ってやったら、一発だよ」



ありえないくらいに、凄く素敵で爽やかな笑顔でそう言われた。



「ちょっとっ! 何言ってんのっ!? アホな事言うんじゃないの。ごめんね、美颯ちゃん」



さすがの私もそれは出来ない。そこまでの勇気はない。



目の前にいる奏夢のお姉さんと、その隣で爽やかに笑う旦那さん。



奏夢の事ならやっぱりこの人達だと思った。



「奏夢の好きなものかぁ……」



甘いものは基本食べない。音楽もほとんど聴かない。映画なんかも適当に見るから、好みと言う点ではないに等しい。



「う〜ん……やっぱりリボンを……いてっ!」



「いい加減にしないと怒るよ」



怒られてるのに楽しそうな旦那さんに、私まで少し笑ってしまう。



「ベタに料理は? 美颯ちゃんは、料理出来る?」



「お菓子とかは作るの好きですけど、料理の方は得意とかではないですが、一応簡単なものくらいなら……」



プレゼントがなかなか決まらなくて、物だけがプレゼントではないと言われて、少し納得してしまう。



それでも、やっぱり何かあげたいなぁとか思うのもあって。



すると、お姉さんがスマホを軽く操作して、少しするとスーツの女性が現れて、小さな紙袋を手渡す。



その紙袋は、最終的に私の手に渡る。



「それは、プレゼントに困ったら、最終手段で使ってね。でも、絶対じゃないから無理にとは言わないから。あ、必ず帰ってから開ける事」



ニコリと笑ったお姉さん達と別れて、私は買い出しを済ませて家に戻る。



お姉さん達が奏夢を引き止めていてくれているので、奏夢は今家にいないから、準備するなら今がチャンスだ。



とりあえず紙袋は置いておいて、先に料理の準備に取り掛かる。



食べ物に執着する事があまりないようで、好物らしい好物が思いつく人がいなかったので、大体奏夢が普段よく食べるようなメニューを聞いたり、思い出したりしながらたまにネットの力を借りて作る。



ケーキも気合いを入れて、甘さを控えて作る。



必死に作っていたら、外はすっかり暗くなりつつあった。



色々セットし終えて、お姉さんに連絡をする。



奏夢が帰るまでの間、紙袋を思い出した。



床に座り込んで、中身を確認する。



「っっっ!?」



中身を取り出して、固まる。



これは……どこを隠せるの?



薄いピンク色のレースがフリフリした、上はリボンが付いてスカートの様に広がっていて、下は両側が紐で結ばれていて布地が少なく、明らかにどこも隠す気がないくらい、透けている下着セットだ。



旦那さんが言ったリボンを結び付けてと言っていたのは無理だけれど、これもなかなかにハードルが高すぎる。



けれど、プレゼントがない今、私にはこれが正解に思えて来てしまっていた。



それでも、やっぱり恥ずかしくて。頭の中で葛藤が凄い。



「どど、ど、どうしよう……」



こんなのを私が着て喜ぶなんて保証はないし、そもそも似合うかすら疑問だ。



こういうのって、雰囲気とかもいるだろうし。



下着を握りしめながら、そんな事をグルグル考えて唸っていた。



「おーい、美颯。聞いてるか? つか、何、それ?」



「ひゃあぁっ!?」



心臓が飛び出るかと思った。



まさか、奏夢がもう帰ってきていて、私の隣まで来ているとは思わなくて、危うく下着を放り投げるところだった。



聞かれて、急いで下着を紙袋に戻して後ろに隠す。



「うわぁ……あからさますぎて怒る気にもなれねぇくらい、隠すの下手だな」



言われ、目を逸らして話もついでに逸らす。



「お腹っ! お腹、空いてない? 私、今日料理作ったかっ……ら……」



目の前で、奏夢が無表情で私を見下ろす。



感情が読めない。



ただ、隠した紙袋の正体を明らかにしないと、何だか駄目な気がする。



目が、ちょっと怖い。

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