第23話

学校で普通に過ごすのが、ほんとに久しぶりな気がする。



凄く普通に授業を受けて、奏夢とお弁当を食べて、また授業を受ける。



奴隷として過ごす事は、もうないらしい。



後、最近奏夢に抱かれる事が、ほとんどなくなった。



相変わらず好きだとか愛してるだとか、囁いたり抱きしめたり、そんな事くらいはする。



別にいっぱい抱いて欲しいとかじゃないけど、あまりに何も無いのは、少し、寂しい、気がする。



だからと言って、自分からして欲しいって言うのも、違う気がするし。



モヤモヤする。



やっぱり私、淫乱なのでしょうか。



でも、好きな人だから、触れて欲しい。



大事にされてるのも分かる。でも、大事に大切にされすぎて、少し微妙な気持ち。



スマホが鳴る。



名前を見ると、奏美さん。近くの喫茶店にいるからと言われ、放課後そちらへ向かう。



奏夢に断りを入れ、奏美さんの待つ喫茶店へと向かう。



店に入ると、すぐに奏美さんが手を振っている。



席に着いて、紅茶を注文する。



温かい紅茶を啜り、ホッとして息を吐く。



「何か、悩んでる? この間会った時、少し元気がないなって。まさか、奏夢が何かっ」



「ち、違いますっ! そうじゃ、なくて……」



私は、恥ずかしいけど、やっぱりモヤモヤしているのが嫌で、相談することにした。



私の話を聞いた奏美さんは、少し意地の悪い顔で笑った。



「そっか、そんなに奏夢の事好きなんだ。それだけ奏夢に夢中になってくれて、嬉しいわ。あの子、ちょっと歪んでるから、色々大変だろうけどね」



ウインクして見せた奏美さんは、凄く綺麗で、女の私でも見惚れてしまう。



「ねぇ、自分から誘う事は特に恥ずかしい事でもないのよ? それはそれで、好きな子に求められるんだから、あの子にはかなり効くんじゃないかしら」



凄く楽しそうに笑う奏美さんに、複雑な気持ちになる。



紅茶をもう一度啜っていると、隣の席に誰かが座る。奏夢だ。いつの間に来たのか、少し無愛想な顔をしている。



「何仲良くなってんの?」



面白くなさそうに私の紅茶を奪って飲んでいる。



「甘っ……これ甘すぎ。美颯くらい甘い」



耳元で言われ、耳をねっとりと舌で舐められる。久しぶりの感覚に身が震える。



「姉の前でよくやるわねぇ」



とか言いながらも、楽しそうな顔で笑う。やっぱり姉弟だなと思う。



奏美さんと別れた後、自然と手を繋がれて、奏夢の家に連れていかれる。



あの事があってから、奏夢は私を必ず家へ連れ帰るようになった。自分が手を引いて。



私は、緊張していた。



初めて自分から行う行為に、緊張で体が固くなる。



気づかれないように、出来るだけいつも通りに振る舞う。



しかし、気づいてしまった。



誘うのはいい。だけどどうやって?



した事がないから、全然分からない。



奏夢みたいに、押し倒すか。いや、私には主導権を握るなんて、ハードルが高すぎる。



だからって、黙っていてもまたいつもみたいに添い寝で終わる。



というか、私はどれだけしたいのか。凄くガッツいている気がする。



恥ずかしい。凄く、恥ずかしい。



でも、やっぱり触れて欲しい。



ベッドに座り、スマホを弄っている奏夢を見て、喉を鳴らして立ち上がる。



大丈夫。頑張るしかない。できる、はず。



ゆっくり近づいて、奏夢の前に立つ。不思議そうに、スマホから目を離して私を見上げる。



「どうした?」



「あ、あの……えっと……」



恥ずかしくて、やっぱり言葉が出ない。



何やってるんだろう、私は。



「何? どした?」



私の手を握って、覗き込む。



どうにでもなれだ。



「みはっ……んっ……」



自分からするキス。奏夢がしているのを思い出しながら、深くキスをする。



奏夢は答えるように舌を絡めてくる。



長くするキスは、凄く気持ちよくて、体に熱が集まる。



だから、意外に素直に声が出た。



「どうして……抱いてくれないの? 私の事、飽きたの? もう、いらない?」



自分で言ってて悲しくなる。涙が溢れて、零れ落ちる前に顔を背ける。



「……ごめん、ね……なんでもない……」



奏夢から離れようと後ろを向こうと体を捻じると、腕を引かれてベッドへ体が沈み込む。



私の胸に頭を乗せて、大きく息を吐く。



呆れられたかな。また涙が溢れる。



「勘弁してくれ……」



「ごめっ……ンんっ……」



深いキス。少し乱暴に舌が這い回る。息をするのが大変。



「なんつー可愛い事言うんだよ。人の気も知らないで……」



上にのしかかり、首に顔を埋める。



「お前に飽きるわけない。いらないなんて、絶対ない。あるわけねぇじゃん。こんなに愛してんだぞ? 好きすぎて、大事で、大切にしたくて、正直、散々抱いたのに、今更どうしたらいいか分かんねぇんだよ……」



戸惑い。困惑。



私が大切で、大事にしようと悩んでくれている。



なのに、私は何て酷い事を言ったのか。何度も謝る私の頭を、髪を、優しく何度も撫でる。



「私……奏夢に触って欲しい……抱いて、ほしぃ……壊れたり、しないよ……?」



少し照れたみたいな顔で口角を上げる。



「ったく……お前、たまんねぇよ、マジで。可愛すぎんだろっ……」



深いキス。甘くて、トロけてしまいそう。



「煽ったのはお前だからな。散々我慢して、余裕もねぇから、優しくしてやれねぇ……覚悟しろよ……」



そんな事を言っていたのに、それでもやっぱり優しくて。



体を滑る指も、甘く囁く声も、赤い痕を残す唇も、何もかもが私を酔わせ、溺れさせる。



「美颯っ、美颯っ……愛してるっ……」



「奏夢っ……ぁあっ……」



久しぶりに感じる奏夢の熱。



完全にその形を覚えてしまったソコを、何度も何度も行き来する度に、体が震え、甘い声が上がる。



「奏夢っ、き、もちぃ……」



「俺も……最高に、気持ちぃよっ……」



うっとりした顔で見つめる彼の顔が、凄く愛おしい。



舌を絡ませ、キスをしたまま下から突き上げられる。このやり方がやたらお気に入りの奏夢。



「はぁっ……キスハメ、最高っ……やべぇ」



「ンんっ、んっ、ふぅっ、はぁっ……」



体をしっかり固定され、激しくなる律動に、キスで塞がれた口から声が出せず、鼻から漏れる息と喉の奥からくぐもった声が出る。



「美颯っ、美颯っ、ぁあっ、イクっ、出るっ」



「あっ、激しっ、また、イっちゃっ……」



何度達したか分からないくらい、体をガクガクさせてまた達する。



イったはずなのに、まだまだ奏夢の熱は変わらなくて、また動き始める。



本当に我慢していたようで、その後も繰り返し抱かれて、後半はほとんど意識はなかった。それでも私を抱くのを止めない。



何度か意識を行き来させられ、狂ったように抱かれた後、頭を優しく撫でる感触で、また目が覚める。



「大丈夫か? 悪ぃ、加減、出来なくて……」



「ん、大丈夫……気持ちよかったよ……」



「っ!? そ、そりゃ、よかった……」



照れているのか、私の首筋に顔を埋める。



「マジで……何だこれ……幸せかよ……」



クスクスと笑い、私の顔を上目遣いで見上げた。



「なぁ……寮なんか帰んないでさ、ずっとここにいろよ」



ぎゅっと私の胸辺りにしがみついて、拗ねるような顔でじっと見られ、小さく私が「いいの?」と答える。



「当たり前だろ。俺が一緒にいてぇの。ここに住んだら、ずっと一緒にいれんじゃん」



甘えるように額と額がくっつけられる。



「ほんとは結婚したいけど、卒業までまだ時間あるから無理だろ」



「け、けけけっ、けっこっ……」



まるで私がおかしな事を言っているかのように、不思議そうな顔で私を見る。



「何驚いてんの? 死ぬまで一緒にいるっつったろ。お前を手離すつもりねぇし。つか、当たり前だけど、卒業したらすぐ嫁にすっから、その時まで薬指は俺のだから、空けとけよ」



思考が追いつかない。パニックだ。



顔が熱くて、目眩がする。



結婚? 誰が誰と? 私が? 奏夢と?



別に嫌というわけではないけど、話が飛びすぎていて、理解不能だ。

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