第四章

第18話

物凄く居心地が悪い。



「あ、あの……自分の教室へ行った方が……」



「あ? 何で? 同じ学年なんだから、内容同じようなもんだろ」



私の事を膝に乗せ、後ろからお腹に腕を回して肩に顎を乗せる。



今はなんと授業中。



しかも、私のクラスなのです。



お姉さんに言われた通り、あのお見舞いに行った次の日から、ほとんど離れてくれない。



トイレすらついてこようとした時は、さすがに止めた。



今まで散々恥ずかしい思いをさせられてきたけど、これはまた意味が違う。



「っ、ゃっ……」



「授業中に、他の奴らのコソコソした視線で、やらしく濡らしてんの?」



スカートの中に手が入ってきて、太ももを撫でて、下着越しに指がソコを掠める。



授業中なのに、声が出そうになり、必死で耐える。



「震えてんの? 可愛いな……」



耳元で楽しそうに囁かれ、耳を舐められる。



こんな自分の教室で、これ以上はやめて欲しい。恥ずかしさに、少し涙が滲む。



やめてと願いながら、彼を見て首を振る。



驚いたように目を見開いてこちらを見つめる彼に、困惑して首を傾げる。



「っ!?」



お尻に当たる感触。これは、まさか。



「お前、こんな可愛かったっけ……やばいわ。たまんねぇ……」



「わっ!」



突然抱き上げられ、教室から連れ出される。



「あ、あの、自分で歩けますっ!」



「暴れんな。俺が抱っこしたいの。させて」



ニカッと笑って頬にキスをされる。



いつもの場所。



いつもと違うのは、無駄に優しい手つきと、優しい言葉。



凄く大切に扱われているような感覚。



誰かにこんなに大切にされた記憶がないから、戸惑ってしまう。



「どうしたら、俺のになってくれんの?」



「え?」



いつもより随分丁寧な愛撫に戸惑いながら、突然の質問に驚いた。



「もうずっと女はお前だけだし、つか、もうお前以外に勃たねぇし。トロけるくらい優しくするし、エグいくらい大切にするよ? だから、俺の彼女になって。嫁でもいいけど?」



さすがに嫁は気持ちが追いつかない。でも、彼女っていうのも、よく分からない。



私は、どうしたいのかな。



「私、は……好きとか、よく分かりません。でも、鳳月君の優しく撫でてくれる手は、好きです……」



「うん、いくらでも撫でるよ。ずっと撫でてやる」



そう言って大きな手が、優しく私の髪を何度も撫でる。微笑んだ笑顔が、とても綺麗。



突然首輪に手をかける。カチャカチャと音が鳴り、外される。



空気に触れたそこが少しひやりとした。その後、冷たい感触が首に触れた。



私の首に〝主〟の証が付けられる。それにそっと触れて、彼の方を見る。



「つけて」



首輪を私に渡しながらそう言って微笑む。



何故こんな事をするのか分からず、言われるがまま彼の首に首輪を付ける。



「これで俺はお前のモノ。俺はもうお前の主じゃないから、これからはお前が俺に命令して」



「命令なんてっ……できない……」



ありえない申し出に、首を何度も横に振って断ってみせる。



「別に命令してくれてもいいのに。う〜ん、じゃぁ……わがまま言って? な? これならいけるか?」



そんな困ったような、懇願するような、つぶらな瞳で上目遣いなんかして、首を傾げないで欲しい。



困るのはこちらなのに。胸の当たりがキュッとなる。わざとなのか、天然のタラシなのか。



でも、こんなにまっすぐな気持ちが、嬉しいのは確かで。



「まぁ、でも、奴隷制度は一年あるし、ゆっくり口説いていくか。俺、しつこいから、覚悟しとけな、ご主人様」



鼻にキスを落とし、笑った。



「てなわけで、とりあえず体から虜にしていくかな」



優しく押し倒され、首筋に舌を這わせる。



体がゾクリとして、身をよじる。



「舌、突き出して」



言われた通りに反応するのは、もう私の体に刷り込まれたものだ。



「いい子……舌まで美味そ……」



出した舌を舐められ、吸われて、声が出る。



ねっとりと絡みつくようないやらしいキスをされて、すっかり慣らされてしまった体が、反応しないわけがなかった。



「美颯……好き」



「あっ、んっ、はぁ……」



「好き、めっちゃ好き、大好き、美颯……好きだ」



まるで暗示にかけるかのように、好きと繰り返す。



私のどこにそんな事を言わせる所があるのか、全く分からない。



きっと、私が珍しいだけ。自分に、靡かないから。何も言わず、言いなりになる女は楽だから。



女の子は、みんな優しくて甘い言葉を囁けば、あっという間にあなたを好きになる。



特別だと言われれば、誰だって嬉しいから。



でも、勘違いしちゃ駄目だ。



私があなたに会うまで、今までどれだけその言葉に、行動に裏切られてきたか。あなたは知らない。



甘く溶かされるように、体を痺れさせるその手も、舌も、言葉の全てが嘘だと頭が否定する。



信じてしまったら、一人になった時の絶望は、計り知れない。正気じゃ、いられないから。



「美颯っ、美颯っ……」



「ああぁぁあぁあっ……」



体は正直。体みたいに、気持ちもこんな簡単にあなたを受け入れられたら、どんなに楽だろう。



ほんとに、面倒で、可愛くない女。



胸が痛くなる。涙が止まらない。



「美颯……どうした? どっか痛いか? 泣かないで……美颯……」



両頬を大きな手が包み込み、涙を唇と親指で拭い、強く、守るように抱きしめられる。



何も考えず、この腕に甘えられたら、身を委ねたら、何も怖くなくなるのだろうか。



この人のモノに……なりたい……



ずっと、この優しい腕の中に、いれたらいいのに。



「……っいで……」



「ん? 何?」



「捨てっ、ないでっ……」



「捨てない。何で? 俺が美颯を捨てるわけない」



涙で顔が見えない。悲しそうな声が聞こえる。



「ずっとっ……傍に……っいてくれる?」



「いるよ。死ぬまで、一緒にいる」



「ひっ……ふっ、っ、離さない?」



「嫌だって言っても、離さない」



「守っ、て……っ、ひっ、く、助けてっ、助けてっ、奏夢っ!」



「俺がずっと守るから、ちゃんと助けてやるから……だから、泣くな……」



子供の様に泣きじゃくる私をキツく抱きしめて、大丈夫だとあやす様に言って、何度も背中を撫でる。



あの人達から、あの家から解放されたい。



もう、辛いのは、痛いのは、嫌だ。



暫く腕の中で泣き続け、思い切り泣いた疲れから、ゆっくりと眠りの中へ落ちていく。



髪を撫でる手が心地よくて、もう駄目だ。手遅れだ。



もう、この人から離れられない。

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