第15話

〔奏夢side〕



耳を疑った。



「奴隷ちゃん、男に抱っこされてどっか連れてかれてたぞ?」



クラスメイトに言われ、俺は何故か体が勝手に動いていた。



屋上に放置して教室へ戻るのもダルかった俺は、適当に広場の木陰に寝転んだ。



クラスメイトの言葉は、俺の体全体の神経を刺激した。



理由は分からない。分かるのは、自分の焦りが尋常じゃない事だけだ。



何故だ? ただの奴隷だろ? ただの性欲処理で、ただの暇つぶしの玩具だろ。



なのに、なんでこんなに必死になって探してるのか。



「クソっ……意味、分かんねぇっ……」



頭がぐちゃぐちゃで、整理がつかない。



とにかく、アイツを見つけないと、落ち着いて考えられない。



俺は思い当たる場所を、片っ端から走り回る。



なかなか見つからない。次第に焦りは怒りに変わる。



奴隷の為に、俺は何をしてるんだ。たかが、奴隷の、あんな淫乱女の為に。



苛立ちをぶつけるように、壁を殴る。



そんなものでこのイラついた気持ちが晴れるわけでもない。



俺はまた足を進める。少し汗が滲む体を冷ますように、ゆっくり進む。



まだ行ってない場所。アイツの行きそうにない場所。



そちらへ足を向けた。



どのくらいの時間が経ったかなんて、分からない。



「見つけた……」



他の男に触れられている。



それだけの事なのに、先程より何倍もの怒りと苛立ちが体を支配する。



意味なんて考えられない。もう考えるつもりもない。



「ククッ……上等じゃん……。マジで俺の淫乱奴隷ちゃんは最高だわ……」



胸に黒い感情が渦巻いていく。笑いすら生まれる。



俺を見たアイツの顔が、青くなり、震えるのが分かる。けれど、今更遅い。俺は許すつもりはないから。



俺のモノだろ。



他の男に簡単に触られてんじゃねぇよ。



あれだけ教えこんだってのに、まだ分かってねぇのか。



色々な感情がグルグル回る。



さぁ、お前はどんな言い訳を聞かせてくれる?



襟を引かれ、唇が塞がれた時は、頭が完全に停止する。



この女は、一体なんなんだ。



何でこんなにも俺の感情を揺さぶってくるんだ。



牧田に声を掛け、俺に擦り寄ってくる。



これがコイツのやり方。それが俺を怒らせまいとする方法。見え透いた機嫌の取り方。



それでも、コイツの欲情した顔を見ると、どうでもよくなった。



コイツは、誰でもない、俺で欲情し、俺を求めている。



それだけで、怒りも苛立ちも一瞬で消え去っていた。



美颯の体を抱き上げると、当たり前のように俺の首にしがみついて、額を擦り寄せてくる。



「ほんと可愛いね、お前……」



そう言って額にキスを落とすと、美颯はゆっくりと目を閉じた。



初めて味わう感覚、感じた事のない感情。



俺にはやっぱりこの感情が分からない。



お前なら、分かるのか……美颯。

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