第三章

第14話

今日は一段と激しい命令の嵐で、ぐったりしていた。



朝一番に他に生徒がいる教室で、深いキスをさせられ、太いバイブを入れて固定され、屋上で散々弄ばれて犯されて、今に至る。



屋上に放置されたまま、私はダルい体を起こす。



「おい、大丈夫か?」



突然声が掛かり、上を見上げる。



そこには、どこかで見た顔があった。誰かは分からないけど。



「俺奴隷とかよくわかんねぇんだけど、災難だな、お前も。アイツ鳳月だろ? 悪評高いって有名じゃん?」



明るい赤毛の髪にピアスをいくつか付けていて、気の強そうな吊り目で、白い歯を見せて笑う口から牙が見え、まるで猫を思わせる男子だった。



「あぁ、話すの初めてだよな? 俺牧田。牧田和巳まきたかずみ。ちなみに同じクラスな?」



同じクラスなのに、知らなかった。私の場合、ほとんど知らない人だけど。



精液と愛液が混じったモノの感触で、気持ち悪くて、立ち上がる事を躊躇していると、彼がシャツを渡してくる。



「ん。これ、使えよ。別に汚れても大丈夫だし。使ったらそのまま捨ててくれていいぜ」



「だ、駄目です。そんな……」



「大丈夫だって。遠慮すんな」



どれだけ言われてもそれが出来ず、断り続ける私に、牧田君は何かを考え、私にもう少し近づいた。



「ま、牧田くっ……」



「暴れんな、落としちまうから。つか、お前軽すぎね? ちゃんと食ってんのかよ。俺の荷物のが重てぇ」



お姫様抱っこされてしまった。落ちそうになるのが怖くて、彼にしがみついた。



「つか、女とここまで密着したの久しぶりだから、何か、ドキドキすんな」



少し照れたように笑う顔が無邪気で、可愛く見えた。



「ちょっと移動すっから、しっかり掴まってろよ」



言われるがまま、大人しくしている。どこへ行くのかと、ただ黙っていた。



私が一度も来ることがなかった場所。



部活をしている人達が使う、部室なんかがある場所。



「ここ、よく俺が部活の助っ人してる時使うんだけどさ、シャワー室あるから遠慮なく使えよ。俺外で見張ってっし」



また人懐っこい顔で「覗かねぇし」と笑った。



せっかくわざわざ抱いてまで連れてきてもらったので、遠慮なく使わせてもらう事にした。



スッキリして外へ出ると、そこには牧田君がいて、固まっていた。



「……ぁ、ご、ごごご、ごめんっ! た、タオルっ、あの、悪ぃっ!」



私が何も身につけていないのを確認し、急いで後ろを向いた。目を逸らしたまま、タオルを私に差し出した。



耳まで真っ赤で、目を隠しているのが必死で可愛くて、笑ってしまう。



裸を晒した事まではなかったが、散々主に人前でも構わず辱められていたからか、裸を見られる事すらどうでもよかった。



「大丈夫、気にしないで。ありがとう……」



タオルを受け取り、彼の真っ赤な耳に触れる。



「なっ!? 何っ!?」



「ごめん、なさい。耳、凄く真っ赤」



焦りながら耳を隠す牧田君に、私はクスクスと笑いが込み上げる。



久しぶりに笑う気がして、不思議な気持ちになった。



「あんた、笑うと可愛いな。いや、笑わなくても可愛いんだけど……って、俺、何言ってんだよ……」



頭をガシガシ掻きながら、真剣な顔を私に向ける。



「なぁ、俺、奴隷制度ってよく分かんねぇんだけど。奴隷ってさ……ずっと?」



「えっと、一年間……」



「思ったより、長ぇな……。あの、さ、それ、終わったら、さ。俺と、付き合ってくんね?」



何を言われたのか、頭が追いつかない。



付き合う? 誰が? 付き合うって、何?



体の雫が首筋を伝って、ポタリと落ちた。



「早く拭いて着替えろ、風邪ひくぞ」



タオルを取られ、体に巻き付けてくれる。



「突然何だって話だよな。悪ぃ。保健室で新しい下着と、余分なタオル持ってきたから、さっさと着替えろ、な」



苦笑いを浮かべる牧田君に、小さくお礼を言って見上げると、猫目なパッチリした目と視線が重なった。



「悪い……」



「っ……」



艶のある視線が熱を込めて、スっと近づいて、唇に柔らかな感触。



「んっ……ゃ……」



「ごめっ、もうちょっと、だけっ……はっ、我慢……してくれっ……っ……」



「ンんっ、はぁっ、んぅっ……」



不器用で、慣れていないのが分かる乱暴なのに、どこか優しいキス。



あの人とは、違う。



何度か角度を変えてされ、唇が離れてお互いの荒い息が部屋に響く。



「……殴って」



「え?」



「俺の事、殴ってくれっ!」



物凄い勢いに、体を引いた私。目をギュッと閉じて待っている牧田君に、私は動けずにいた。



優しい人なんだと思った。



「弱ってる奴につけ込んで、俺、マジで最低だな……ごめん……」



まるで傷ついたみたいな顔で、前髪をくしゃりと握りしめている。



私は、そんな彼の腕に手を乗せる。



「大丈夫だから、謝らなくていいよ」



私のせいで自分を責める優しい人。



言うと、彼は少しホッとしたような顔をして苦笑する。



「あー……っと、着替えっ! そうっ、着替える、よな? 俺、外にいっからっ!」



慌てて出ていく後ろ姿を見ながら、少し体が冷えたのか、くしゃみが出て身を震わせた。



用意してもらった下着を着け、素早く服を着替える。



着替え終わると、荷物を持って外へ出る。



壁に凭れ掛かって待っていた牧田君に、お礼を言うと、少し気まずそうに笑った。



こんなにも優しい人に、私みたいな汚れた人間は似合わない。



だから、彼にはもう関わらないで置こう。



「さっきの、話し、さ……」



「ごめん、なさい」



「え?」



「牧田君は、いい人だね。私みたいな汚れた人間には……眩しすぎるから……」



驚いたような、困惑気味の目がこちらを見つめる。



「俺は……いい人なんかじゃ、ねぇよ。それに、お前だって……綺麗だろ」



言って、私の頬に触れる。



「人の奴隷に手を出して、タダで済むと思ってるのかな? 牧田和巳君」



背後から声がした。恐ろしく冷めた声に、足が震える。



恐る恐る振り返ると、両手をポケットに入れてダルそうな顔で不敵に笑う主の姿。



何で? どうして、ここに?




一歩ずつ近づいてくる主は、冷たく怒りを含んだ目を私に向け続けていた。



体が震える。牧田君に何かされたらと、怖くなる。



私は気持ちを落ち着かせる為に、ゆっくりと深呼吸をした。



「俺さぁ……どんな小さなもんでも、自分のもんをどうこうされるのが……一番嫌いなんだよねぇ。特に俺の知らないところで横からとか……気ぃ狂いそうになるんだわ……」



そう言った彼の顔には、もうダルそうな不敵な笑顔も、怒りの表情もなく、ただ、言葉には出来ないくらいに冷たい無表情があるだけだった。



体は、勝手に動いていた。



私は背伸びをし、両手は主である鳳月君の制服の両襟を掴んで引き寄せる。



「っ!?」



「んっ……ふっ……はっ、んっ……」



長く深く、嫌と言う程教え込まれた舌の動きが、今は自然と出来るようになっていた事に、笑いすら起きない。



「んンー……っはぁ……へぇ……面白い事すんじゃん……いいねぇ……」



「はぅ、んっ、ンんっ、ぁ、っ……」



後頭部を固定し、何度も角度を変えて深く深く唇を貪ってくる。慣らされた私のはしたない体は、当たり前のように熱くなり、また濡れてくるのが分かる。



唇が離れ、崩れそうになる体にグッと力を入れて牧田君に振り返り、出来るだけ感情を込めずに口を開く。



これで、最後。



「ありがとう牧田君。でも、私は……この人のモノだから……ごめん、ね」



嬉しかったのは嘘じゃなくて、申し訳ないのも本当で。でも、こんなに汚れた私を救ってくれるのは、彼じゃないから。



だって、この人とのキスだけで、私の体は簡単に女になる。



もう、手遅れだ。

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