第2話

奴隷が集まって、説明を受ける。



校長室。学校で一番厳重で、許可が無ければ決して入る事がない、特別な場所。



初めて入るその綺麗な場所を、ぼんやりと見渡していると、真ん中の豪華な机の隣の両側に立っていた、数人の男子生徒の一人と目が合った。



一瞬驚きに開かれた目を、すぐに逸らされた。



どこかで会った事があっただろうか。



そんな事を考えていたら、校長が口を開いた。



「君達には災難ではあるが、決まった事だ。覆す事は出来ない。学校を去るしか方法はない」



厳しい声でそう言った校長の言葉に、泣く者、唇を噛み締める者、様々な反応を露わにする。



私だけ、何もせず、ただ黙って校長を見つめていた。



泣いたって、悔しがったって、何をしたって逃れるなんて無理だから。



私には、学校を辞める事すら自由には出来ないのだ。



生まれた時から、私は縛られているから。



希望なんて、とっくに捨てた。そんなもの、何の役にも立たないから。



人間以下の扱いを受けても、それでも人間らしくありたいと、そう思う気持ち以外は、何も思わなくなった。



怖くないと言えば嘘になる。



誰だって痛いのも、辛いのも嫌だ。それでも、私には何の力もない。抵抗する力さえ、ないのだから。



「君達はこれから一年間、奴隷としてここにいる彼ら〝あるじ〟の言う通りに動いてもらう。学校生活においては、今まで通りで構わない。ただ、彼ら主の命令はいかなる理由があれ、拒否する事は出来ない。それが家庭の事情や、授業中であろうとも、彼ら主の命令は最優先だ」



彼ら〝主〟は、自分専用の奴隷を決めるのもいいし、皆で共通で使うのもいいという。



要は、殺す事などの被害以外は、なんでもありなのだ。



ただ、専用の奴隷には、他の主が手を出す事は出来ない。



奴隷が主を裏切る事がなければ、だけど。奴隷もまた、主を選ぶ事が可能だという。



上手く利用すれば、一年間一人の主だけに仕えるという選択肢が生まれる。



主がどんな人達かを知るのが、奴隷にとって、一番重要事項だ。



これを誤れば、もう本当に絶望だけが待っている。



主が奴隷を専用に選ぶ期間は一週間。それを過ぎると、主は専用奴隷を選べなくなる。



それぞれ奴隷が自己紹介のようなものをしていく。



私の番がきて、主達の視線が刺さる。



私は、まっすぐ前を向いて、深呼吸をした。



「二年F組、稲瀬美颯いなせみはや



それだけ言って、頭を軽く下げた。



奴隷側が終わり、主側の紹介がされていく。ただ、主側の紹介は、教頭先生が行った。イケメンと美人揃いだ。



左から、二年の東部累とうべるい

少し薄く紫の入った黒髪を肩まで伸ばし、気だるげで眠そうな目をした、泣きぼくろが印象的な、モデルみたいな長身の男子生徒。



その隣が、二年の芝理葉しばみちは

鎖骨辺りまである茶色の髪を緩やかに巻いて、薄く化粧をされた顔は、可愛らしい。身長は低め。



その隣に、二年の林田誠はやしだまこと

短髪でスポーツマンらしい筋肉質な体型で、かなり大柄。厳しそうな硬派な印象。



そして、校長先生の机を挟んで、左から、三年の小早川陸こばやかわりく

男の子にしては少し背が小さく、栗色の髪は癖が強く、くるんと巻いていて、人形のように可愛らしい。



その隣が、三年の光井愛佳みついあいか

腰まである艶やかな黒髪が綺麗で、品があるお嬢様を思い浮かべる。凛とした気高さを漂わせる美人な顔つきが、気の強さを表していた。



そして最後が、先程私を見て一瞬驚いた顔をした人。

三年の入谷律樹いりやりつき

中肉中背で金色の明るい髪に、整った顔は人懐っこそうで、制服を上手く気崩してそれをお洒落に着こなしている。



この部屋にいる主はこれで全部。



ただ、まだ後一人いるらしい。その人の名前を聞いた奴隷側の生徒が小さく「ひっ」と声を漏らしたり、口々に「最悪だ」と、マイナスの言葉を放っていた。



二年A組、鳳月奏夢ほうづきかなめ



悪名高く、名前を聞いただけで大体の人が、あまりいい反応を見せないくらいの有名人らしい。



私は、同じ二年だというのに、知らなくて、私だけが奴隷側でぽかんとしていた。



噂をすればなんとやら、背後の扉が荒々しく開いた。



振り返ると、だらしなく乱れた制服を着た、男子生徒が入ってくる。



赤く染められた柔らかそうな髪に、誰もが目を惹く程に綺麗なガラス玉のような瞳に、同じ人間かと思う程に整った顔。林田君と変わらない程の長身で、肌けたシャツから見える付きすぎていない、丁度いい筋肉。そして何より、高校生かと疑いたくなるくらいの色気が溢れる、妖艶な雰囲気を持っていた。



この人は危険な気がする。敵に回すのも面倒そうだし、近づくのもロクな事がなさそうだなと思って、私は素早く目を逸らした。



目をつけられるわけにはいかない。



隣にいるなかなか背が高い男子生徒に隠れるように、身を縮めた。幸い私はお世辞にも大きいとは言えないので、うまく隠れてしまう。小さい事を初めて有難いと思った。

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