第五話 制約
「は、へ?」
ルアイリは、その端正な顔立ちからは想像もつかない、貴族らしからぬ間抜けな声を思わず漏らした。
「さっきも言ったが、教会に行けば再生してもらえるだろう。高くつくだろうがな。だが、問題はそこじゃない」
「も、問題……?」
あまりにも簡単に動揺するルアイリを見て、メレクは逆に落胆し、ため息をついた。
もう少し遊んでやろうと思っていたのに、早くも終わりを迎えそうな雰囲気になってきたからだ。
「再生術を扱える聖属性というものは、なぜか女にしか発現しない。良かったな。確か、近くの街には今、聖女様がいるそうじゃないか」
話を黙って聞いているルアイリは、いまいち状況を理解できていないのか、間の抜けた顔をしたままだ。
「そしてそうなれば、きっとお前は社交の噂の的だ。聖女にちんこを生やしてもらった稀有な存在として」
魔力欠乏から回復しつつあったルアイリの顔色が、今度は死人のように蒼白くなっていった。
一方、従者の少年は黙ってうつむいたままだったが、強い緊張が感じ取れた。
主人の醜態が自分の責任と無関係ではいられないことを理解しているのだろう。
「だが、そうならない方法もある」
メレクのその言葉に、何かしら希望を見出したのか、ルアイリは彼を見上げた。
従者の少年に比べて、少し心配になるほど単純な男だとメレクは思った。
「なかったことにするんだ。例えば、お前を治療せずに屋敷に幽閉して、誰にも会わせないという風に」
メレクは彼らに背を向けて振り返り、ゆっくりとその場を歩き始め、まるでその場にいない観衆に演説するかのような身振りで、話を続けていく。
「ある日、お前は窓から外を見る。
庭で子どもたちが笑い合っている。そして、お前は思う。
『あれは自分を嘲笑っているんだ』、と」
メレクは歩みを止め、振り返ることなく続けた。
「誰も彼もお前を疎ましく思い、影でお前を嘲笑う。
お前を気遣う優しい笑顔さえも、お前の心を擦り潰していくだろう」
そう言うと、メレクは演技的に自分の目頭を押さえた。
「おっと失礼。少し昔を思い出してしまった」
実家の強い後ろ盾があり、今まで大した挫折を経験したことがないのだろう。
何らかの任を受けてここにいるはずなのに、従者を連れ歩くその気楽さが、そのことを如実に物語っていた。
「人に嫌われ、嘲笑され、見下される。その気持ちはよく分かるつもりだ。俺にも経験があるからな」
メレクは静かに語った。
「俺だって本当は、こんなことはしたくないんだ。だってそうだろ――」
彼は振り向き、ルアイリに向けてナイフを突き出した。
「何でお前のちんこなんて握らなきゃならないんだ。興奮なんてされたら、ちょっとしたトラウマだ」
差し迫った最悪の状況から来る緊張に、ルアイリは大きく息を飲んだ。
彼を見下ろすメレクの目は、ルアイリにとってこの上なく恐ろしいものに感じられていた。
「……あ、そっか」
何かを閃いたように、メレクは両手を軽く打ち合わせる。
「銃でぶっ飛ばせばいいんだな」
そう言うと、メレクは肩に掛けた銃を手に取り、それをルアイリに向けた。
「じゃ、悪いけど股ぐら開いてくれる? 変な血管とか傷つけたりしたら、死んじゃうかもだし」
「ま、ままま、待ってくれ! 言えない、言えないんだ!」
ルアイリは紐で縛られていながらも、その場から逃げようと必死に後ずさった。
「私が話せば皆死んでしまう! そういう制約の術を受けているんだ!」
その言葉を聞いたメレクは首を傾げた。
「せいやくぅ? 何だそりゃ?」
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