エピローグ

第21話

放課後。



先生に頼まれている用事がある洸輝を待つ為、校門へ向かう。



「ちょっとよろしいかしら?」



校門に着くと、前に人が立ちはだかる。



フワフワと巻いた栗色の長い髪を揺らし、少し吊り上がった大きな黒目が、私を見ている。



気が強そうで、小柄だけど腰に片手を当てて堂々とした立ち姿に、圧倒されて引いてしまう。



「わ、私、ですか?」



「ええ。あなたでしょ? 私の洸輝様をたぶらかしているのはっ!」



誑かすとは、どういう意味だろう。それに、今この子は〝私の洸輝様〟と言った。



「洸輝様と私は、赤い糸で結ばれていますのっ! それを突然現れた、何処の馬の骨ともわからない卑しい女に横から奪われるなんて、こんな屈辱初めてですわっ!」



物凄い剣幕でまくし立てられ、あまりの迫力に絶句してしまう。



どうしたらいいのか分からず、ただ黙って聞いていると、腰に手が回され、後ろに引き寄せられる。



「渚那、お待たせ」



「洸輝……」



「洸輝様っ!」



名前を呼ばれ、洸輝は先程まで私に向けていた甘い笑顔を一瞬で真顔に変え、そちらを向いた。



「如月、さん?」



「嫌ですわ洸輝様ったら、そんな他人行儀な。鈴音って、呼んでくださいな」



「いや、呼ばないです、他人なので。後、気安く名前で呼ばないで下さいと言ったはずですが」



淡々と何の感情もなくそう言って、私をまた見下ろして優しく笑った。



「渚那、行こ」



「あの、でも……」



「気にしなくていいよ」



腰にあった手が私の手を握り、優しくひっぱられる。



すれ違いざまに、如月と呼ばれた女の子に、まるで作られたような笑顔を貼り付け「さようなら、如月さん」と言って校門を出た。



手を引かれながら、洸輝を見る。



「み、洸輝、いいの?」



「うん」



本当にどうでもいいと言うように、違う話に変わってしまった。



気にしなくていいと言った洸輝だけど、私は気になって仕方がなかった。



そう、洸輝に冷たく突き放されていた時の、彼女の恍惚とした表情を見てしまったから。



胸に嫌な予感と、黒い感情が生まれるみたいな感覚。



私は無意識に洸輝の手を強く握り返していた。



次の日から、やたらと視線を感じるようになった。



もちろん洸輝ではない。



好意的ではなく、どちらかと言えば監視されているような、変な感じ。



「あんたさ、何でそんなにストーカーに好かれやすいのよ」



「ストーカーっていうより、監視的な? 見張られてる感じ、かな」



洸輝を待つ間、幼なじみである友人――新井清香あらいきよかと話をしていた。



「じゃぁ、その女が関係してるってわけね」



それは間違いないと思う。



用があるなら、この間みたいに直接来ればいいのに、私なんかを監視してどうするんだろう。



洸輝を監視するならまだしも、私を監視したところで意味ないのに。



「今日どうせ会うんじゃないの? 金持ち集まるんでしょ?」



「言い方……。お義父さんのお誕生日だから、多分来るって洸輝が……」



そんな話をしていると、洸輝が教室の前から顔を出す。



「渚那、お待たせ。先輩もすみません」



「大丈夫だよ」



今日は洸輝のお義父さんの誕生日で、パーティーがあるらしく、私も行く予定である。



「は? 私も? 何でよ」



「俺、ちょっと席を外さなきゃいけない間、渚那が他の男にと思うと……」



洸輝の目が怖い。



清香を見ると、凄く、物凄く嫌そうな顔をしている。



「まぁ、でも確かに、あんたを一人にするのもねぇ……」



という事で、三人で行く事になった。

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