第18話
父親の愛情深さと聞いて、洸輝の重いくらいの愛情は、父親譲りなんだと思った。少し歪んでるけど。
「じゃぁ、洸輝も愛人作るの? あ、でも私が愛人?」
少し悪戯心に火がつき、意地悪な質問をする。少し驚いたような、呆気に取られたような顔で、私を見つめていた洸輝がニヤリと笑う。
「生憎俺は父親みたいに器用じゃないから、1人に注ぐ愛情しか持ち合わせてないよ。というか、そんな意地悪な事言うんだね……まだ俺の愛の深さが伝わってなかったんだ。そうか……じゃ、もっともっとこの体にいっぱい俺を刻み込まないと駄目だね。3日は余裕でかかるけど、渚那の体、耐えられる?」
挑発するような顔で、首筋からスーッと指で撫でられる。
3日とか、冗談でしょ。それこそほんとに死んじゃう。
「無理、無理っ! 3日とか、死ぬっ! 分かってるっ! ちゃんと分かってるからっ!」
「ふふ、残念。でも伝わってたならよかった」
無邪気に笑った洸輝に、釣られて私も笑う。
「話を戻すね。愛人の子だって言っても、父親からしたら跡取りの1人である事に変わりはないから、洸弥か俺に跡を継いでもらいたいんだ。そうなると、どうしても許嫁って存在が出てくる。俺は渚那以外興味無いから、ずっとそれを拒んでて、洸弥は女癖悪いからなかなか、ね」
「そっか……」
「別に絶対許嫁が必要ってわけでもないんだけど、俺に女の影がなかったから、父親は気にしてるんだ。渚那の事は父親にすら言いたくなかったから言ってなくて」
そう言って、私を抱きしめる。
「渚那可愛いから。それに、うちの父親歳の割にいい男だから、渚那取られたら俺、父親でも殺しちゃうかもしれないし」
何を言い出すんだろうかこの子は。
「私の意見は無視なの? 洸輝こそ、私の愛情信じてないの?」
拗ねたように言って、洸輝の頬を抓る。
「もう、洸輝以外を好きになんてなれないよ。夢中だからね」
そう言って洸輝の頬にキスをする。
洸輝が顔を赤くして、嬉しそうに笑う。それだけで私は幸せな気持ちになる。
「じゃぁ、渚那は……俺とずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん。一緒にいたいよ」
「一生?」
「洸輝がそうしたいなら、私はいいよ」
「紹介、していい? 親に。普通の人から見たら、変な家庭環境だし、欲まみれの世界だし、でも絶対渚那に嫌な思いさせないし、もちろん大事にもする。俺が、ずっとずっと守るから」
涙が流れた。悲しい涙じゃない、幸せすぎて苦しくて流れる涙。
「私ね、親を知らなくて。気づいたら施設にいて、そこもあまり優しい施設じゃなくて。だから、私は人に愛された事がないの。愛するって事がなんなのか、正直分からない。洸輝に愛してもらえて、凄く嬉しいんだけど、私の気持ちが愛なのか依存なのか、分からなくて。いっぱい考えた。洸輝の為に私はどうあればいいのかとか」
言いながら泣く私の頭を、洸輝は優しく撫で続ける。
「ずっと愛されたくて、好きだって言ってくれる人全員と付き合った。でもっ、誰と付き合ってもっ……好きって気持ちが分からなく、てっ……愛する事を、諦めたのっ……」
何も言わず、ただ黙って私の頭を撫でる洸輝を見る。優しく微笑んでいた。
これじゃ、どっちが年上かわからない。
「……そこで、洸輝を見つけたの。洸輝が私を見つけてくれた。人から見れば重いけど一途に、一心に私を愛してくれる。私はそれに答えたくなった。その分だけ返したいって思った。それは依存じゃないって……今なら分かるよ」
洸輝の頬に手を添えた。
「洸輝が好き。愛してる。私……洸輝がいないと、もう……駄目なの。こんな、私でもいいの? 愛してくれる?」
「もちろん。依存でもいいんだ。俺の為にいっぱい考えてくれただけで、幸せだし、嬉しいんだ。俺には渚那だけ。ずっと渚那だけ愛してるから。傍にいてくれるだけでいい。傍にいて欲しい……」
唇が重なる。ただ触れるだけのキス。それでも、まるで抱かれているみたいに、体が熱くなる。
洸輝から離れる事はもう無理だ。愛人になってもいい。ずっと洸輝と一緒にいられるならそれで構わない。
両手を握って、私の指にキスをする。
「結婚、して下さい。今は、まだ、予約になっちゃうけど」
照れたような、でも真剣な目で私をじっと見つめる。私は、人生で一番の笑顔を浮かべる。
「はい」
はっきりとそう返事をして、洸輝の胸に飛び込んだ。
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