第16話

体が痛くて、ダルくて起きれない。



気づいたら、私は1日半も眠っていた。



その間も、何度か私を味わったらしく、洸輝は嬉しそうに私の中の良さを話してくる。



いつの間にか綺麗にされていた体を、ゆっくり起こす。



「シャワー……浴びたい……」



「一緒に、入る? 体、辛いなら洗ってあげるよ?」



長く我慢した挙句、私を散々抱き尽くしたからか、今までのあの興奮していた洸輝が嘘のように、荒い呼吸をしなくなっていた。



それはそれで寂しい気もする。



ぼんやりとそんな事を考えていたら、体がふわりと浮かび上がる。



お姫様抱っことか、初めてされた。何だかむず痒い。



「渚那……軽すぎ」



少し困ったように笑う洸輝の顔が近くにあって、抱かれていた事を思い出し、すこし照れてしまって、鎖骨辺りに顔を埋める。



頭にキスの感覚が降る。



労わるように、頭と体を丁寧に洗われ、後ろから抱きしめるように、二人で湯船に浸かる。



気持ちよくて、またウトウトしてくる。



「渚那……眠い?」



「ん……」



覗き込みながらそう聞かれ、頭を後ろへ凭れかける。



「ふふ……エロい顔、してる……」



そんな顔してるつもりはないし、そもそもそれってどんな顔なんだろうか。



後ろから興奮したような息遣いが聞こえ、腰の辺りに固いものが当たる感覚。



「洸輝っ、これ以上したら、ほんとに、死んじゃう……」



「一回、一回だけっ、だからっ……」



そう言って首筋や肩に舌とキスの雨。胸をまさぐる手に手を添えて抵抗する。でも、それは素早く絡め取られる。



何もつけていないソレが入って来ようとするのを、必死に止める。



「洸輝っ、生、だめっ、だからっ……」



「ごめんっ……渚那っ、ごめっ……」



ほとんど理性が飛んでいる洸輝は、強引に私のそこへ押し入ろうとする。



「大事にっ、して……くれな、いの?」



「っ!?」



ブレーキが効かない洸輝の腰が止まる。



振り返り、精一杯に訴える。



ハッとした顔で固まる洸輝が、立ち上がる。それと同時に、私の体も持ち上がる。



その後、ベッドでまだ主張を続ける洸輝のモノに、二回も愛された事は言うまでもない。







何かいい匂いがして目が覚める。



「……お腹、すいた……」



だいぶ軽くなった体をベッドから起こすと、いつの間にか大きな服が着せられていた。



洸輝の匂いがする服の袖を口元へ持っていき、息を吸う。



「ふふ、変態ね……」



洸輝の匂いを嗅いだ自分を笑う。



カチャカチャと食器の音がして、匂いが強くなる場所へ足を向けた。



「あ、起きた? よく眠れた?」



テーブルに料理を並べていた洸輝が、私に気づき微笑む。



「おはよう……って言っても、もう夜だけど」



私を抱き寄せ、軽くキスをして優しく笑う。



凄く甘い甘い時間。幸せすぎる。



「お腹すいたでしょ? ご飯作ったから一緒に、食べよ」



手を引かれ、席に着く。



誰かと夜ご飯を食べるなんて、いつぶりだろう。いつもなら、洸輝と食べるお昼ごはん以外は何をするにも一人だから。



箸を持っておかずを一口口へ運ぶ。



「おいし……」



視線を感じてそちらへ向くと、洸輝が微笑みながらこちらを凝視している。



「食べないの?」



「食べるよ。でも……幸せすぎて、胸がいっぱいで……へへ」



はにかむように笑う洸輝に、胸がきゅっとなる。



こんなふわふわした時間を過ごした事なんてない。幸せすぎて怖い。



ご飯も終わり、片付けを手伝う。さすがに至れり尽くせりに、甘えるばかりではいけない気がする。



洗い物を始めると、後ろから抱きしめられる。



「洗いにくいよ、洸輝っ……」



首に顔を埋める洸輝が、深く息を吸っている。



「はあぁ〜……渚那から、俺と同じ匂いがする……たまらない……」



「当たり前でしょ。同じシャンプーだし、この服だって洸輝のだし……って、こらっ……だめっ、んっ……」



洗い物をする私の剥き出しの足を、洸輝の男らしい指がいやらしく撫でる。



ゾワリと湧き上がる感覚に、身を捩る。



「ほんとに、もうっ、これ以上は駄目っ! 我慢してっ!」



少しキツめに言うと、洸輝はしょんぼりして眉を下げた目をこちらに向ける。



可愛い顔で見たって駄目。今日はもうしない。さすがにここまで体力馬鹿だとは思わなかった。



「じゃ、じゃぁ、キス。キスだけっ……」



キスくらいならと私は洗い物を終え、洸輝の方へ向き直る。



「っ……ふっ……はぁ……ンんっ……」



「渚那っ、んっ、渚那っ、渚那っ……はぁっ……ぅんっ……」



舌を絡める音だけで、体が熱くなる。



キスだけと許した私が馬鹿だった。こんないやらしくて体が感じるキスをしてくるとは、予想外だった。



必死で洸輝の体を押すけど、強い力で抱きしめていて、全く意味が無い。



「みっ、……きっ……ぅんンっ、もぉっ、ゃっ……ふぅンんっ……だ、めっ……っ……」



「はぁ……っ……もっと……はっ……んっ……」



止まらないキスに、頭が朦朧としてきた。されるがままをいい事に、洸輝は私のお尻を揉みしだき、自身を私に擦り付けている。



「ちょっ、洸輝っ、何してっ……」



「ごめんっ、でも……勃っちゃった、から」



勃っちゃったから、じゃない。もう、ほんとにこれ以上は無理だ。



キツく抱きしめ腕がビクともしない。どうやってやめさせるか、頭をフル回転させる。



―――ガチャッ!



もがいている私の耳に、興奮した荒い息とそれとは違う、扉をあける音が聞こえる。



「おーい、洸輝ー」



男の人の声がし、私はドキリとした。なんてタイミングで入ってくるのか。何せ、今私はダボッとした服と下着しか履いていなくて、挙句キッチンで洸輝に迫られている。もちろん、洸輝は大きくなったそれを私に擦り付けるのをやめていない。



バッチリと目が合った。見開かれたその目と。



「あー……何か……えらい時に来ちゃった感じ?」



なんて言いながらも、目は離される事はなく、こちらをずっと見つめている。



「んっ、洸輝っ、ちょっとっ……」



「はぁはぁっ……渚那っ、美味しぃ……」



人が入ってきたにも関わらず、私の首筋を舐めまわしては興奮気味に荒い息を吐く。



なんと言っていいか分からないこの状況に、入ってきた男の人は微動だにせず、私は身を捩り、洸輝は舐めまわすのに夢中だ。



どうしたらいいのか。バシバシと洸輝を叩いていても埒が明かないので、私はすぅっと大きく息を吸う。



「いい加減にしないと、嫌いになるよっ!」



嫌いという言葉が、今の洸輝にどれだけの影響があるかは分からなかった。ある意味賭けだ。



しかし、予想以上に効果はあったようで、ピタっと動きが止まり、大きく見開かれた目は私を見ながら不安に揺れた。



「っぃ、いやだっ! 渚那っ! 嫌いにならないでっ! 渚那っ! 渚那っ!」



泣きそうな顔で私を抱きしめる洸輝。



「へぇ〜……」



一先ず落ち着いた私は、ゆっくり洸輝の背中を撫でる。



「じゃ、とりあえずお客さんの相手してね。放置しちゃダメだよ」



感心したような声を出した男の人は、面白そうな物を見たかのように、口角を上げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る