第三章

第10話

屋上でフェンスに凭れて座る洸輝を背に、大きな体に包まれながら本の文字に目を走らせる。



「渚那っ……はぁ……渚那渚那っ……はぁはぁ……」



相変わらず荒い息を繰り返す恋人を、私は放置中。最近は、余程の事がないかぎり、片時も離れなくなった。



後輩という立場から、恋人に進展してからは、スキンシップは非常に激しい。人前では控えるように言っているから、今のように誰もいない時の洸輝は、なかなかに激しい。



「洸輝、当たってる」



「ぁ、ごめん、でも、渚那が可愛すぎて、勃っちゃうよ……」



可愛いだけで勃たせていては、どうしようもない。



お尻に当たるそれをゆっくり擦り付けてくる。



「洸輝……ちょっと我慢、ね」



「ぁああ……渚那っ渚那っ、可愛いっ……渚那っ……はぁ、はぁ……」



腰を揺らすのに夢中の洸輝が、私の耳に舌を這わせる。暖かい舌の感触と熱い吐息が、ゾクリと私の体を熱く誘う。



昼間から一体何をしているのかと、妙に冷静な頭がそう告げる。



「んっ、みつ、き……こらっ」



「だって、無理だっ、腰、止まらないっ……」



先程より激しく擦り付けてくる。



下着が汚れるだとか、そんな心配はしていない。彼が着替えをいつでも用意している事は知っていた。



どれだけ用意がいいのか。自分がどんな時におかしくなるのか分からないからと、恥ずかしそうにはにかんだ事は、昨日の事のようだ。



「ぃっ! たぁっ……ンもぉっ! 洸輝っ、痛いよっ!」



「っ、ぁぁっ、あっ……ぅっ、え? あっ! ごめっ! ごめんっ! 夢中でっ、ごめんっ!」



欲を放つ時、私の首筋に噛み付いたせいで、私の首筋には洸輝の歯型が付き、痛みが走る。



告白してからというもの、洸輝に遠慮がなくなってきた気がする。



「洸輝、ちゃんと我慢覚えなきゃ駄目だよ」



「ぅっ……が、頑張り、ます……」



少しシュンとした洸輝に向き直り、頭を撫でて、小さくキスをする。



目をありえないくらい見開き、洸輝が固まる。



大きな腕に抱きすくめられる。



「はぁ、好き、愛してる、渚那っ渚那っ……」



「私も愛してるよ洸輝……」



今日も平和に時間が過ぎていく。だからこそ、こんなに幸せだと怖くなる。



世界に二人だけなら、こんな思い、しなくていいのに。



そう思う反面、こんな事思う自分がおかしいって分かってる。



よほど拗らせてるなぁと自分を笑う。



二人の時間が終わるチャイムが鳴る。



「授業、始まるね。行こっか」



「あ、う、うん」



立ち上がり、差し伸べた手に洸輝の手が触れた。



「離れたく、ないなぁ……」



背後で小さな声がした。



なんて可愛い事を言うんだろう。ほんとにどこまでも愛おしい恋人に、笑みが溢れる。



「私もだよ。でも、私達は学生です。学生の本分は勉強、でしょ?」



しょんぼりしている洸輝に向き直り、頬にキスをする。



「頑張ったら、ご褒美あげるから、ね?」



そう言うと、洸輝の目が子供のように輝く。



繋いだ手は離さずに、教室へと足を向けた。







離れたばかりなのに、もう会いたい。



いつからこんなに彼ばかりになってしまったのか。最初は興味だけだったのに。



正直、元々依存体質ではあったけど、これ程までではなかったように思う。



悩みだしたら、止まらない。答えを出さずにはいられない。



授業など頭に入るはずがなく、難しい顔で悩む。



「愛の力……ってやつ?」



授業が終わり、まだ教室を出たところで、いつの間に来たのか、もう既に来ていた洸輝に後ろから抱きしめられている。



そんな中、小さい時から姉妹のように育った幼なじみがそう楽しそうに言った。



「まさか、コレとくっつくとはビックリだわ。ほんとあんたって愛される事に弱いよね」



「愛される事に……弱い……」



頭の上で洸輝が呟いたのが聞こえた。



「まぁ、ここまでの愛情を気持ち悪いくらいぶつけられちゃ、仕方ないわな。良かったね、変態後輩君」



「いたっ、痛いですっ、先輩っ……」



幼なじみが気持ち悪いの部分を強調して、洸輝をバシバシと叩いている。



「重たいもん同士お似合いじゃん。おめでとさん。私はあんたが幸せなら、それでいい」



そう笑った幼なじみが、本当に嬉しそうで、泣きそうになる。私の過去を唯一共感できる相手。



「後輩君。渚那を泣かせたら、殺すから」



それだけ言うと、去っていく。



愛された事がないから、愛される事に弱い。



そう言われれば、そうかもしれない。変な納得をしてしまう。



それがたまたま洸輝だったからって事?



それが違う人なら、洸輝を好きになってなかったって、事なの?



考えれば考えるほど、怖くなってくる。



そんな事ないって、言いたいのに。今の私には、自信が持てない。



「渚那……どうしたの? 大丈夫? どこか痛いの?」



オロオロしながら、私の顔を覗き込む洸輝の声にハッと我に返る。



「ううん、大丈夫」



ホッとしたように笑った洸輝。



「洸輝、デート、しようか」



何も考えたくなかった。嫌な考えを、打ち消したい。



洸輝が断る事はなく、こうして、放課後デートをする事に決まった。

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