第9話

〖洸輝side〗



目の前の状況に、頭がついていかない。



乱れた衣服。精液と愛液で汚れた下着。涙を流す俺の愛しい人。



どうしてこうなった? 俺はこんなに大事な人に、一体何をしたんだ?



先輩の肌を堪能してたはずなのに、その後の記憶が飛んでいる。



無我夢中だった。もう昂る自分のモノが熱すぎて、痛くて、楽になりたいって、思ってしまったのは覚えてるのに、その後が曖昧で。



先輩の手が伸ばされる。俺は急いで離れないと行けないと、汚れたままの自身を先輩の下着から離して、鞄に手を伸ばす。



どれだけ謝っても意味が無いような気がしても、謝る口は止まらない。



―――嫌われたっ! 捨てられるっ!



そんな言葉が頭をよぎり、熱すぎるくらいだった体が、一瞬で血の気が引いたように冷える。体がガタガタと震える。



怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ!



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!



奥歯ガチガチと鳴る。涙が溢れて止まらない。



「……行かないで」



え?



「……捨てないで」



は?



「……好き、洸輝、好き」



な、え? え?



ドクンと心臓が大きな音で波打つ。



これは……夢?



いつもどこか上の空で、全てを諦めたような無気力な先輩が、俺に縋り付いて、捨てないで、離れないで、そばにいてと泣いている。



おかしいよ。だって、捨てないでと願うのはあなたじゃなく、俺のはずなのに。



小さくて細くてか弱い女の子。俺の腕の中で泣きじゃくる先輩の頭を、恐る恐る撫でると、甘えるように胸に頬を擦り付けてくる。



俺があなたを捨てるなんてありえない。



頼まれても無理だ。あなたを手放す事は、俺にとって死ねと言っているようなものだ。



あなたは、俺の全てだから……。

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