第一章
第3話
初めてあったあの日を、私は一生忘れない。
逆に、あんな衝撃な告白は忘れようにも忘れられない。
妙に視線を感じる。
正直、自慢ではないが私はモテる方だと思う。
友人曰く、モテるというより、憧れる人が多いらしい。
大人っぽいといえば聞こえはいいけど、私の場合はただ冷めているだけ。何に対しても興味をそそられないから、情熱もない。
だから、今まで付き合ってきた男達は、皆同じ事を言って私から離れていく。
―――『思ってた感じと違った』と。
そんな事言われても困る。
勝手に期待して勝手に裏切られる。
私にはどうしようもない。
だって、私は人を愛した事も、愛された記憶すらないから。
私を愛してくれる人が、この先現れるのかすら、この時の私にはどうでもよかった。
そんな時、洸輝に会った。
今までとは全く違う種類の、舐め回すような熱い視線。荒々しく吐き出される息づかい。
なのに、距離が遠い。
別に告白の為に呼び出されたわけでもなく、ただ私が見つけてしまっただけだけど。
友人が「なんか前々から変な奴があんたにつきまとってるよ」と教えられた。
全く気づかなかった。いつも何かを気にして生きてないから。
洸輝に近づいていくと、無駄に男らしい、The男前な顔が真っ赤になり、目が見開かれる。
デカいな。第一印象はそれだった。
鍛えているのか、ガタイのいい長身を自分より小さく細い木に隠すように立っていた。丸見えなんだけど、なんか可愛いと思ってしまった。
「何か用? 用があるなら、見てないで言ってくれる? 凄く気になるから、あなた」
声をかけると、木が折れるんじゃないかと思うほど木に力を入れる指が赤く色づく。
「指、怪我するからやめな」
そう言って洸輝の指に触れる。大きな体が驚くほどに、ビクビクと跳ねる。
衝撃。いや、今思えば、初めて触れられずイカされた感じの快感だった気がする。
ビクビクと体を震わせていた洸輝のいやらしい顔に、初めて欲情したのだ。
その時の私は何が起こったのか分からず、呆然と洸輝を見つめる。
小さく、はぁと息を吐き、私を照れたような、愛おしそうな上目遣いで見ると、相変わらず木の影から洸輝は口を開いた。
「あぁ、先輩が近くに……可愛いなぁ……はぁはぁ、あっ、あ、の……えと、その……」
心の声が我慢できないんだなぁと思いながら、妙に気になる洸輝。この時久しぶりに何かに興味を出した。
「す、好きですっ! いや、愛してるんです。あの、先輩をずっと死ぬまで、ずっと見ていていいでしょうか? ただ、見るだけでいいんです。あの……はぁはぁ、見る、だけ、許して……ください……あぁ……先輩、可愛い可愛い………」
こんなにもウザイ程の愛情を受けた事のない私に、目の前の大きな大型犬のような可愛い生き物からの想いは十分過ぎるくらいのものだった。
「ぁ、す、すみませんっ……き、気持ち悪ぃです、よねっ……でも、でも見る、だけです。ただ、なるべく邪魔にならない、場所から……見る、だけ……。あぁ……先輩が俺を見てるっ……可愛い……はぁはぁ……」
快感。そう、あれは明らかに快感だった。
私はこの日初めて自慰行為をした。
こんな事口が裂けても言えないけど。相当自分がヤバい奴なんだと自覚した。
洸輝と出会ってから、自分の見えなかった部分を暴かれる。それすらも快感だった。
ほんと、狂ってる。
だからこそ、私達は惹かれ合うのかもしれない。
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