第56話

叶崎君へ。


可愛い便箋がゴミ袋の中に捨てられていたので、拾って使いました。お母さんのものだよね。勝手に使ってごめんなさい。


知ってのとおり、私は誰かのお腹の中で育って、生まれたんじゃありません。どうやって造られたのかは知らないけど、私には本物がいて、その子をそっくりに造られたんだと教えられて、指示されるまま叶崎君の元を訪ねました。今日からこの男の子と生活するんだと思ったら、変に意識してそっけない態度をとってしまいました。ごめんなさい。


一目見た時から、君は本当に死にたいようには見えなかった。ただ諦めていただけに見えた。だからお終いの日を変えて伝えたのは賭けだったの。絶対この人はこれから生きたくなるに違いないって、思った。余計なお世話だったらごめんなさい。騙すようなことをしたから怒っているかもね。


私の名前は、奏雨っていうの。お父さんもお母さんもお姉さんもいる、幸せな女の子なんだよ。あーあ、私が本物だったら良かったのにな。偽物って聞かされて、役目が終わったら消えちゃうって、すごく悲しかった。


でも、これを読んでいる時に生きていて良かったって心から思っていてくれているなら、私が存在していた大きな意味になるよ。


私を消したこと、絶対に自分を責めないで。私が頼んだことだし、なんだか叶崎君とはまた逢える気がする。


契約を続けて100歳まで生きるもよし、契約を解消して本物の奏雨に会うのもよし。この2つを私は準備してあげた、その選択は君に任せる。


どっちを選んでも、叶崎君が幸せに生きるならそれでいいんだ。


また逢う日を楽しみに。



手紙はそこで終わっていた。そのうち涙で手紙が湿っていき、字が滲んだ。


僕は生きている喜びと、彼女を失った悲しみが交差して、独りでいつまでも泣き続けた。

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