同じ悲しみ
第43話
6月20日 日曜日。
朝になり、寝ぼけまなこの男子が二人リビングにやって来たことに対して祈さんは驚かなかった。
「……おじゃましてました」
穂苅君はだるそうにして軽く頭を下げる。
「玄関に靴が二人分並んでいたから誰か来てるとわかってた」
「昨日は迷惑かけて悪かった」
「いいえ。良かったら朝ごはん食べて」
すでにテーブルの上には三人分の食事が用意されていた。なんて気が利くんだろう。感服していると穂苅君はからかうような笑みを含みながら耳打ちしてきた。
「いい奥さんになるぜ」
「ちょっ……!」
一気に眠気が覚める。幸い祈さんには聞こえていなかった。何事もなかったように僕と穂苅君は椅子に座る。
「いただきます」
毎回面倒くさがらず手の込んだ料理を作ってくれる、家にこんな奥さんが待っていたら100人中100人が仕事から直帰するだろうなと食べながら考えた。
「美味いな、毎日手作り食ってんの?」
「うん」
「明莉にもこのくらい美味いの作ってもらいたい」
ありがたいことではあるけど、祈さんが他の人のために料理を作ったのが、ちょっとだけもやもやした。
それがなぜなのかはわからない。
「花房さんの料理も美味いと思うんだけど」
「美味くてもまずくても他の男には食わせたくないなー」
「どうして?」
「んー、独占欲?」
「やきもちでしょ?」
間に割って入って祈さんがズバッと指摘した。
「……はっきり言ってくれるなよ」
ぐうの音も出ない穂苅君は負け惜しみのように呟いた。
僕自身もさっきまでわからなかったもやもやの理由が解決して、気まずい気持ちになりずっと下を向きながら黙々と食べ続けた。
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