第42話
しぶっている穂苅君を何とか家に入れることに成功する。つま先で廊下を歩き、そっと階段をのぼって僕の部屋に行く。電気をつけてすぐは暗闇に目が慣れていたせいで眩しかった。
「こざっぱりした部屋だなぁ。家具なんもないじゃん」
片付けられた部屋を見てびっくりされるが、旅立つ準備のために片付けたとは口が裂けても言えない。
「ベッド使っていいよ。寝心地は保証できないけど」
「お前はどこで寝るんだよ?」
「長座布団があるからそこで」
「なんだよそれ、だったら雑魚寝しようぜ」
そう言って穂苅君はベッドを使わずフローリングの床に大の字で寝そべった。
「雑魚寝って?」
「成人して友達んちで酒飲みやったらみんなこうして寝て一晩明かすんだよ。大人の寝方だな」
適当な言い訳をして結局は自分だけベッドで寝るのが忍びないから僕に合わせてくれたんだろう。
「ほら、電気消して寝ようぜ」
「わかった、体痛めないでね」
電気を消してお互いに長座布団を枕代わりにして仰向けになる。斬新な寝方に慣れなくてちょっと落ち着かない。
「誰かと同じ部屋で寝るって久しぶりかもな」
「花房さんとは泊まりに行かないの?」
「昔はな。弟も一緒にあっちの家と自分ちを行き来して泊まったよ。あの頃が一番平和な時代だった」
「戻れたら戻りたい?」
「そうだな。受験とか就活とか考えなくて良かったし。でも明莉と付き合ってないのは嫌だな」
「今ここに花房さんがいたら、すごく喜んでいただろうね」
「馬鹿、もういいから寝ろよ」
拳で胸を叩かれてグッと声が出た。天井に星は見えないし自然を感じられるものはないけど、キャンプをしている気分になって楽しくなる。
「明日、家に行っていいかな?」
「遊びに来るだけならいいぞ。親には何にも言うなよ」
「弟くんに、線香をあげたいんだ」
「……好きにしろよ」
穂苅君はそれっきり話さなくなり、代わりに寝息が聞こえてきた。僕はこっそり起き上がってさっきもらった原稿用紙を手に取り、携帯のライトを当てて読み始めた。
きっと朝まで寝付けないだろう。
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