第38話

「小説を書いたこと、親は知らないの?」


「はぁ? 知ってるわけねぇよ、俺に興味ねぇんだから」


「あなたは親に興味あるの?」


「……はぁ!?」


周りの音がうるさくて、祈さんの小さな声は断続的にやっと聞き取れるくらいだった。一生懸命説得をしているらしい。


「あなたが 持たないから も興味を持た 弟 影 きずっているの なたも じ。自 悲 えているのに はいつ

も めないでいるから ず と思ってる。鬱憤 まってどん 憎くなってあな

方から遠ざかっ んじゃないかな このままじゃ なる まだ間に をして 聞いて 自分 夢 になって 伝え せっか 生きて だから」


穂苅君は困ったように目を泳がせてから、原稿用紙を扇子みたいにパタパタと胸の位置で扇いだ。


「今更仲直りか。アホらしい、二度と拾われないように燃やしておくわ」


穂苅君は憤慨して大股で去って行く。これ以上の説得は厳しそうだ。


僕達三人はゲームセンターの外に出る。鼓膜が閉じたみたいに耳がおかしくて頭の中ではまだ音が響いていた。


「ごめんね、迷惑かけて。前はあんなに頑固じゃなかったんだけど」


解散前に花房さんは近くのコンビニでペットボトルのお茶を2つ買ってきてまた謝罪をした。恋人の変化に気持ちがついていけなくて今にも泣きそうな目をしている。好きな人が死に別れるのは辛いけど、生き別れるのも辛い。


「僕も弟が亡くなったのは知っているんだ。両親が、喧嘩ばかりしてるのも」


「あたしとノリは近所に住んでいてね、小さい時から弟君と三人で遊ぶこともあったんだよ。赤ん坊の頃から身体が弱かったんだ。ちょっと風邪を拗らせただけで死んじゃうなんて。いい子だったのに」


花房さんはわっと泣き出してその場に座り込んでしまった。すかさず祈さんはしゃがんで背中に手を添えた。


抑うつと受容の間。穂苅君は初めて話した時言っていた。まだいなくなった実感がないと。僕もそうだ。未だに母さんが死んだとは受け入れられなくて、自分が後を追おうとしているのは、ふと夢の出来事なんじゃないかと思う。


僕と穂苅君は性格が違くても、やっぱり似ている。


しゃくりあげて泣いていた花房さんはだんだんと泣き止んできた。腫れぼったい瞼を擦って「今日はありがとう。また、学校で」と細々した声を出して、自転車のハンドルに手をかけた。


「あの」


最後に僕はどうしても気になることがあった。


「穂苅君の親が心配してたのは、本当?」


花房さんは目を細めて笑みを浮かべてこう言った。


「ノリのお父さんとお母さんね、二人とも別々にあたしんちに来ることがあるんだ。直接本人には聞づらいんだろうね、最近の様子とか変わったことないかとかを聞いてくるの。ノリの自慢話をすることもあるんだよ。昨日一晩帰って来なかったのはあたしん家にいると思ってたみたい。来てないって言ったらすごく心配していたよ。今日も帰らなかったら捜索願い出すつもりだったんだよ。さっきお母さんからメールが来て、ノリが帰ってきたってさ。本当世話が焼けるよ」

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