第34話
「ごめん、夜中に起こして。もしまた同じことがあっても、仕事の責任を感じて無理に付き合わなくていいんだよ。迷惑かけちゃうから」
このまま付き合わせたら朝になる。アンドロイドとはいえ、動き続けたら疲労してしまうんじゃないか。ロボットみたいに無機質じゃない、心臓がなくても肌が冷たくても、確かに生きている。
「迷惑だなんて思ってない。最初にも言ったけど、私は本物の子を完全コピーしてるの。本物の子も、同じことしてたってこと」
「……優しい子なんだろうね。そんな魅力的な子が僕なんかに想われて可哀想に」
「また自虐」
祈さんは呆れて笑った。
「どうだろうね。私は、悪い気はしないけど」
そう言って祈さんはベッドから立ち上がって部屋の出入り口に歩いた。
「そろそろ戻るね。明日は土曜日だから起こさないでおく」
「ありがとう、祈さん」
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
パタンとドアが閉められてすぐさま布団を被って横たわる。夜泣きする赤ん坊を母親があやして寝かしつけたのと等しい。男のくせに情けなくて明日、彼女の顔をはっきり見られない。
大人になった僕に会いたいとか、想われて悪い気はしないとか、間もなく終わりを迎えるのに希望を持たすようなことを言うからまいる。
それでも本心嬉しいと思った。きっと別世界にいる無事大人になれた僕は幸せに暮らしている。単なる妄想でも、都合よく自分に言い聞かせたら救われた気持ちになった。
ひとつまみ程生まれた未来への未練も、祈さんを両腕で包み込んだ感触も、眠っているうちに忘れてしまわなくちゃいけない。
残り1週間。1秒1秒を大切に生きて、後悔のないよう旅立とう。
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