第29話
しかし、新しい顧問の先生というのが海原先生と正反対の性格で、校内でも一際厳しいことで有名な先生だった。
「穂苅君、髪色が明るい! 家に帰って染め直してから来なさい!」
毎朝正門で生徒を向かい入れる女性教師、
「これは地毛です〜」
「入学したての頃は真っ黒だったでしょうが! 直さないなら美術部副部長になれないどころか、土日に部屋を使わせませんからね!」
「学校終わったら直します〜」
げらげらと仲間達に笑われ、困った素振りを面白おかしくしながら敷地内に入る穂苅君に続いて、僕も門を抜けようとした時だった。
「叶崎君待ちなさい」
ぴしっとした山野先生の呼び止める声につい身体が硬直してしまう。カツカツと踵の高い靴音を立てて僕に近づく。
「……大変なことが立て続きに起きて辛いでしょうけど、無理はしないで。穂苅君はあんな調子だけどあなたのこと気にかけてるの。海原先生の代わりにはなれないかもしれないけど、何かあれば私に相談しなさい」
そう小声で囁かれ、面食らってしまう。先生の目はつり上がったままだけど、憂いを帯びた瞳をしていた。
「あ、……ありがとうございます」
「叶崎! 早くこーい!」
先の方で穂苅君達が僕を待っててくれている。
「行きなさい」
「は、はい」
僕は頭を下げてすぐに穂苅君の元へ急いだ。あの優しい目。美術部の顧問になったことを一瞬でも嫌だなと思ってしまったのを恥じる。山野先生と部活をするのにちょっと期待を持った。ほんの数日間の関わりになってしまうけど。
和やかな心持ちで1日が始まったが、それが一転して大騒動になる出来事が起こってしまう。
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