偲ぶ

第28話

6月18日金曜日。


「そーうすーけくーん。いい加減学校に行こーう。行かなきゃ俺つまんないよー」


海原先生が亡くなってから僕は学校に行かず、ぼんやりと家で過ごした。今日もそうしていようと思っていた矢先、聞き覚えのある声がして窓から顔を出して門を見下ろした。学校を休むつもりでいたのに、穂苅君が迎えに来たのだ。海原先生の葬式では意気消沈して一言も話さなかった彼は、また陽気に戻っていた。


「まだ寝てたのかよ! もう8時だぞ。一緒に遅刻しに行こうよ〜」


家の前を自転車のベルを鳴らしながらぐるぐる回っている。どうやら僕が支度をするまでああしているつもりらしい。


とても気が乗らなかったが、彼もああして僕を元気づけようとしてくれているんだから、断ったら申し訳ない。


「本当にいい人だね。ぐいぐいくるタイプは苦手だけど」


祈さんは彼を褒めたと同時に貶した。


いつでも学校に行けるよう祈さんは弁当を毎日作ってくれていた。行かない日はその弁当を昼に二人で分けて食べた。作りたてでまだ温かい弁当をバンダナに包んだ彼女はどこか嬉しそうだ。


「あと1週間だね」


「うん」


「悔いのないようにやってね」


「……うん」


家に住んでいることがばれたらややこしいことになりそうなので祈さんは彼に会わず家の中で気配を消した。見送られず外に出て玄関の鍵をかける。


「あの子はいないのか?」


予想通り穂苅君はぐいぐいきた。


「まさか。一緒に住んでるわけないよ」


「ふーん」


「迎えに来てくれてありがとう。行こう」


久しぶりの外。友人になったばかりの同級生と並んで自転車を漕いで学校に行く。他から見れば派手な男子と地味な男子のでこぼこした二人組で、何で仲良くしているのか理解し難いだろう。


登校中、案の定穂苅君の仲間三人と遭遇して不思議そうな顔をされた。


「穂苅、いつの間に叶崎君と仲良くなったん?」


「最近姿見ねーと思ったら」


「今日カラオケ行かね?」


あっという間に穂苅君は囲まれてわいわいと賑やかな輪の中心におさまって、僕は後方で大人しくしていた。高校に入って友達を一人も作れなかった間に、穂苅君達は友情を育んでたくさん友達を作っていた。この輪に僕が入る隙間は見当たらない。もちろん、穂苅君を独り占めする気はないけど、寂しさがないわけじゃない。


「わりぃ、わりぃ、今日部活なんだ」


「はぁ? 部活ぅー? 何の?」


「美術部! 俺副部長だぞ! すげえだろ。叶崎は部長な」


少人数で部長も副部長もいなかった美術部は、海原先生が主になって活動していた。穂苅君は新しい顧問の先生に僕を部長に推薦して、自分は副部長になることを志願したらしい。


仲間達が互いに顔を見合わせてざわつく中、僕は嬉しさでわずかに自分の顔が綻ぶのを感じた。

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