また明日
第21話
6月9日水曜日。
翌朝7時。祈さんはだいぶ機嫌が悪いようだ。リビングに彼女の姿はなくて、朝食もこの時間帯に作っているはずなのに用意されていない。部屋から出た様子もなかった。昨夜の発言を深く反省しながら目玉焼きとウインナーを焼いて、レタスをちぎって皿に盛り付けてサランラップをかける。祈さんの分の朝食を作った後、僕は買い置きのメロンパンを半分だけ食べた。
数日ぶりの独りの朝。陽の光が窓から差し込んでいて、鳥のさえずりが聞こえてくる。穏やかな空間なのに、気持ちが沈んでいる。
睡眠不足のせいもあるけど、短期間に感情が揺れて疲れているのが大きい。
エナジードリンクを飲んで頭を働かせようと頑張る。先生があの笑顔の裏にどんな思いを秘めているのかは知らない。少なくとも僕にはいつもと変わりなく見えた。
もし悩みがあるなら、どうしても彼を救いたい。
祈さんが言っていた、海原先生がわざと死ぬかもしれない。人が故意に病気になるってことだ。そりゃ酒やたばこをガンガン飲んだり吸ったりして、不摂生な生活を繰り返せば体調は悪くなる。先生は、酒もたばこもやらないし、食事も睡眠も規則正しくしている。本人が自分の誇れるところは健康体であることだけだと宣伝していたんだ。
確かに見舞いに行った時、誇りに傷がついたというのにショックを受けている様子はなかった。それとも、いつにも増して明るかったのは空元気なんだろうか。
考えれば考えるほど先生がわからなくなる。普段見せる顔が偽物だったら、どうしよう。
ふと、生命終了支援センターの重要説明事項が頭をよぎる。
「終わる日時やその方法を決定し最期を迎えることはできます」
カランカラン。手に持ったエナジードリンクの空き缶をフローリングに落としてしまった。
まさか。祈さんが言いたかったのは。
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