第20話
二人きりになった残りの道は、お互いに黙ったままで、家に着いてから意を決して彼女に思ったことを打ち明けた。
「先生がわざと死ぬつもりなんて、あるわけなかったよ」
あんなに明るくて楽しげに話す人間が死にたがっているはずがない。僕なんか楽しいのにちっとも上手く笑えなかった。それはやましいことがあるから。先生は豪快に笑っていたんだ。元気になったと言っていた。
尚も祈さんは昨夜と同じ浮かない顔をしている。何かを言いたげだけど、我慢している様子だ。はっきりしない彼女に苛立ちを覚えた。
「言いたいことがあるなら言って」
「いいの? 気を悪くするよ」
「いいから言って」
「……私には、無理に笑おうとしていた叶崎君と海原先生が同じ顔に見えた」
僕は呆気にとられる。あれの何処が僕と同じだというのだろう。祈さんがどうしても先生を死にたがりにさせたいのが気に食わなかった。
「たった2回しか会っていない君に先生の何がわかる?」
「わかる。だって、あれは絶対に嘘笑いだった」
苛立ちが更に募ったのがいけなかった。僕は、彼女に決して言ってはいけないことを言ってしまった。
「本物の人じゃないのに、人の心がわかるわけないだろ」
彼女は目を見開いて真っ直ぐに僕を見た。相手を畏怖する目、嫌悪する目。これは知っている。母さんが父に向けていた目と同じだ。
僕は我に返って撤回しようとしたが、祈さんはわなわなと身体を震わせて睨みつけてきた。
「酷いこと言うんだね」
その言葉を残して貸している客間へ飛び込んでドアを閉めた。
涙目に、なってた。
心拍数が上昇する。まさか、泣くなんて思わなかった。僕は祈さんを無機質なロボットのように扱って、泣くわけないと酷い言葉で侮辱した。
生まれて初めて女の子を泣かした。父と同じことをした。
その夜、罪悪に苛まれて眠気が吹っ飛んでいた。穂苅君から借りたつまらない小説を読んでも、朝まで眠ることはなかった。
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